コーヒーが冷めないうちに | <ムービーナビ> by映画コーディネーター・門倉カド

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素直な気持ちを伝える大切さ。不思議な映像美で描く、温かな愛情物語。

2018年9月21日公開
監督:塚原あゆ子
出演:有村架純・伊藤健太郎・石田ゆり子 他

【賛否両論チェック】
賛:愛おしい人への大事な気持ちを、伝えられるうちに伝えることの大切さを、いくつもの温かな人間ドラマを通して教えてくれる。過去へと戻る際の不思議な映像美にも注目。
否:どうしても似たようなシーンが多いのは、ご愛嬌か。世界観も好き嫌いが分かれそう。


ラブシーン・・・ほんの少しだけあり
グロシーン・・・なし
アクションシーン・・・なし
怖シーン・・・基本的にはなし


 小説の映画化です。過去へと戻れると噂の喫茶店で働くヒロインと、店を訪れる常連客達を描いた人間ドラマです。主演は有村架純さん。

 物語の舞台は、とある町のとある喫茶店「フニクリフニクラ」。その喫茶店には、店内のとある席に座ると自分が望んだ時間に戻れるという、不思議な噂がありました。その日店には、噂を聞きつけたOLの清川二美子(波瑠)が来ており、早速店員の時田数(有村架純)に、
「戻れるんですよね?」
と念を押します。しかしそこへ常連の平井八絵子(吉田羊)が、横から何かと口を出してきます。実は過去へと戻るには、色々と面倒くさい決まりがあるのでした。

 二美子が戻りたいのは1週間前、幼馴染みの賀田多五郎(林遣都)が別れの挨拶もそこそこに、急にアメリカへと立ってしまった日でした。お互いに今は恋人もおらず、淡い期待を抱いていた二美子は、その日は何も言えずに別れてしまったため、もう1度その日に戻りたいと願っているのでした。そんな彼女が聞かされたのは、『過去に戻ってどんなことをしても、現実は変わらない』ということ。それでも構わないという二美子は、過去へと戻れるというその席に既に座っている女性(石田ゆり子)に、席を譲ってもらおうと声をかけますが、女性は全く聞こえている様子がありません。思わず肩に触れてしまった二美子はその瞬間、まるで水の中にいるように息が出来ない、不思議な感覚を体験するのでした。数いわく、その女性は“幽霊”で、身体に触れると息が出来ないのは“呪い”だとのこと。これもルールの1つで、『過去に戻れる席には先客がいる。席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ』というものでした。その幽霊は、日に何回かトイレに立つことがあり、そのタイミングを見計らうしかないとのことで、二美子は仕方なく、幽霊が席を立つのを待ち続けることにします。

 店には他にも、同じように過去へと戻りたいと思っている美大生・新谷亮介(伊藤健太郎)や、認知症を患っている高竹佳代(薬師丸ひろ子)、そして数の従兄で店のマスターである時田流(深水元基)といった顔ぶれが揃っていました。ほどなくして、佳代は夫の房木康徳(松重豊)が迎えに来て、八絵子も帰宅。店に残っているのは、二美子と亮介、そして数の3人となり、時刻は閉店時間の午後8時を迎えてしまうのでした。するとその時、幽霊がふと席を立ち、トイレへと向かいます。二美子と亮介は顔を見合わせますが、二の足を踏んだ亮介は二美子に譲り、彼女はその席に。そこへ数がコーヒーを淹れてくれますが、ここで最も大事なルールがありました。それは、『過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。コーヒーが冷めないうちに飲み干さなければならない』というもので、もし飲み干さないとあの幽霊のように、この席に座り続けることになってしまうとのことでした。それでも二美子は覚悟を決め、アメリカへ旅立つ直前の五郎と話した、1週間前のあの日へと戻るのでしたが・・・。

 まず特筆すべきは、その独特な映像美です。過去へと戻っていく中で登場人物達が通る道ともいうべき過程が、美しく幻想的な雰囲気で描き出されているのがステキです。

 そしてその先で待っているのは、登場人物達それぞれの、切なくも温かい絆の物語です。本当は大切なはずの人への正直な気持ちを、見栄や意地、相手への気遣いから言えずじまいだった彼らが、過去へと戻って初めて知る相手の本当の想いに、観ている側も思わず一緒になって涙してしまいます。大切な人が、明日も同じようにいてくれるとは限らない。だからこそ言える時に、自分の想いをちゃんと言葉にすることがいかに大切か、思い知らされるようです。個人的には、吉田羊さん演じる八絵子と妹の久美とのエピソードが心に染みました。

 そんな中で最も切なくて、物語の核にもなっている、ヒロイン・数のエピソードも見逃せません。彼女がずっと胸に秘めてきた心の傷の正体と、その意外な真実にも、思わず驚かされます。そしてやはり実感させてくれるのは、家族の愛の大きさです。あまり言うとネタバレになってしまうので、詳しくは是非実際にご覧になってみて下さい。

 どうしても同じようなシーンの繰り返しが多いのも、こうした作品ならではのご愛嬌。沢山感動してホロっと泣ける、そんな大人のヒューマンドラマです。


【ワンチャン・ポイント】
※深水元基さん・・・本作では、有村架純さん演じるヒロインと共に喫茶店を切り盛りする従兄・流役。最近の映画では「新宿スワン」での、綾野剛さん演じる主人公の上司役や、「ラブ&ピース」での、長谷川博己さん演じる主人公の同僚役、そして「映画 みんな!エスパーだよ!」でのエスパー役や、「少女椿」でのサーカス団員役、「曇天に笑う」での追われる士族役等、いずれもそのコワモテを活かした怪演をなさっています。最新作では他にも、地方の遊園地に配属されたヒロインが、“魔法使い”と呼ばれる先輩社員と出逢い変わっていく「オズランド 笑顔の魔法おしえます。」にも出演されていますので、そちらにも注目です。


オススメジャンル&オススメ度・・・<感動したい>