9月は東京都自殺対策強化月間です。葛飾区の保健予防課主催で「なみだ先生」こと感涙療法士の吉田英史氏を登壇ゲストとして「涙活(るいかつ)でストレス解消」と題した自殺対策講演会が行われました。
講師の吉田英史氏は感涙療法士という肩書で活動をしています。感涙療法士とは「涙活(るいかつ)」という手段を使って心の健康をサポートする人で、医師で脳生理学者、東邦大学医学部名誉教授でもある有田秀穂氏と創設した資格だそうです。涙を流すことがストレス解消になることが医学的に証明されています。
<「涙とストレス緩和」有田秀穂氏の論文より >
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/129/2/129_2_99/_pdf
最初に涙の効用についての講義が始まります。涙活とは意識的に泣いてストレス解消を図る活動です。涙を流すことで自律神経が交感神経(=緊張や興奮を促す神経)から副交感神経が優位な状態(=脳がリラックスした状態)へとスイッチが切り替わります。吉田氏がわかりやすく図解して解説してくれます。
レクチャーの後、三つの形式で実際に涙活を体験します。一つ目は絵本の読み聞かせで、津波で亡くなったおばあちゃんと少年の温かい交流の物語が話されます。
二つ目はさまざまなジャンルの2~3分の短い5つの映像が流れます。普段は無口な父親が娘の結婚披露宴で思い出深い曲を一生懸命に演奏する姿を描いた映像や、耳の不自由な父と娘の物語の映像など、どれも琴線にふれる映像で、会場中すすり泣きが聞こえてきます。
三つ目は1枚の写真を見て泣くというコーナー。吉田氏いわく、映像とは違って自分でその写真にうつっているモノを使ってストーリーをカスタイマイズできるので、必ずその人に合った泣ける題材になるそうです
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こみあげる涙をハンカチでおさえる会場参加者が続出しています。
次に泣ける話を創作するワークショップが始まります。「○○への感謝の手紙」というタイトルで会場参加者に作文をしてもらいます。
その後一人ずつ発表します。発表中に涙を流す人もいます。「父親への感謝の手紙」では父子家庭で育って父親に苦労をかけた話、「こうちゃんへの感謝の手紙」では昨年亡くした愛犬との思い出話が語られます。
続いては泣き言セラピーという泣き言を吐き出してもらうワークショップにうつります。涙の形をした紙に弱音、愚痴等の泣き言、ストレスを書き出してもらいます。ストレスは心の内で何かモヤモヤするものです。これを言語化することによって整理されてスッキリするといいます。
泣き言が書かれた紙は「涙千箱(るいせんばこ)」におさめられます。後日、集まった泣き言の紙はお焚き上げされるそうです。
吉田氏が匿名で書かれた泣き言をランダムに読み上げ、アドバイスをします。「朝、なかなか起きれない。日中眠くなってしまう」という泣き言には、寝る前に泣いてほしいという助言。泣くことで副交感神経が優位になりリラックス状態になるので睡眠に入りやすくなるというのがその理由になります。次から次に吉田氏が涙にひっかけてアドバイスしていきます。
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講演の最後には涙友タイムという、参加者がいくつかの小グループの輪になって涙活体験の気づきや感想をシェアします。「泣いてスッキリしました!」、「涙にストレス解消効果があるなんて知りませんでした!勉強になりました!」等々、感想が出てきます。
涙友タイムで吉田氏がそもそもなぜ「涙活」を始めたのかの話も披露されました。
吉田氏は高校教師時代に生徒たちの相談を受けているうちに、涙の持つ力に気づいたと言います。
「相談中に喜怒哀楽を出す生徒がいます。大きく二パターンあって、一つが相談中に怒り出す生徒。その相談事を話している中で不条理に感じていることが表面化され、怒りをあらわにする生徒がいます。そういう生徒は何度も何度も相談に来ます。もう一つのパターンが相談中に泣き出す生徒。思わず感極まって涙が出てきてしまうのでしょう。そういう生徒はそれっきり相談に来なくなります。そのときに涙を流すと人は心に引っかかっている澱が取れてスッキリして前向きになるんだろうなあとうすぼんやりと思ったものでした。のちに脳生理学者の有田秀穂氏の涙の効用についての論文を読んで、あーそうなんだあと納得するわけですが。」と𠮷田さんは言います。
さらに吉田氏自身、涙に救われた体験談も話します。
「高校の先生をやる前に、私は高齢者福祉施設で働いていました。介護の仕事に従事していたわけでなく、事務方でサラリーマンをやっていました。その職場はブラックで24時間働き続けるという感じのところでした。ストレスフルな日々を送っている中で、ある日同じように感じている同僚が職場に来なくなりました。同い年ということもあり、話しやすかったのでしょう、よく私に疲れた、疲れたと愚痴をこぼしていました。その同僚が仕事に来なくなり、後日上司に聞いたら自死したということでした。うつ病だったそうです。今だったら過労死と認定されていたケースだと思うのですが、当時はまだその言葉がそれほど認知されていなく、この件はそれっきりで終わりました。今思うと私も同じような状況になっていてもおかしくありません。なぜ私はそうならなかったのか。当時タイタニックという映画が流行っていて、友人に誘われ映画館にその映画を観に行きました。その時私は号泣しました。ものすごくスッキリしたことを覚えています。それからというもの、映画を週に一回ぐらい観に行くようになりました。全部の映画というわけではないのですが、よく泣いていました。当時はもちろん、涙のストレス解消効果を知っているわけでもなく、なんとなく泣いて体感的にスッキリするなあと思っていました。今考えると涙を時々流していたから、その過酷な職場をやりすごしていたのかなと、ある意味、涙によって救われていたのだなと思っています。その一方でストレスが一つの原因で亡くなってしまった同僚がいる。もしその同僚を映画鑑賞に誘ってその人が号泣していたら結果が変わっていたかもしれないと思うことがあります。涙活事業を始めて12年目になりますが、続けられているのはその同僚が亡くなってしまったことの悔しさが実はあります。」
閉会の挨拶では「皆さん、今日の涙活体験をきっかけに日々の生活に涙活を取り入れましょう。涙活習慣をつけてストレスフリーな生活を送っていただきたいです。今回自殺対策講演会ということで欝々としている人こそ泣く時間をしっかり持ってほしいですね」と𠮷田氏。
読者の皆様にも涙活をおすすめしたいです。 |