「映画の力」EPISODE:内藤瑛亮監督「映画館を救うことは、この世で彷徨う荒んだ心を救うこと」 | C2[シーツー]BLOG

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川本 朗(カワモト アキラ)▶名古屋発、シネマ・クロス・メディア
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「映画の力」EPISODE:
映画館を救うことは、この世で彷徨う荒んだ心を救うこと

▶︎「映画の力」エピソードまとめ→

 

 これまで生きてきて、高校時代がいちばんしんどかった。鬱屈とした思春期を過ごしていた僕は楽しそうに学校生活を送る同級生に苛立ち、同級生を皆殺しにする夢想に耽っていた。『バスケットボール・ダイアリーズ』でレオナルド・ディカプリオが学校で銃を乱射して生徒や教師を殺す夢想をする。あんな感じ。中学3年のときに起きた神戸連続児童殺傷事件の少年Aに関する記事をよく読んでいた。高校3年の春に自分が住む町で高校生が主婦を殺す事件が起きた。自分の暗い欲望が具現化したようで、怖かった。

 

 逃げ場となったのは映画館だった。そこで出会った映画はささくれだった僕の心に寄り添ってくれた。

 

 『ガタカ』の自分の存在を否定するように身体を洗うイーサン・ホーク。『バッファロー‘66』のトイレを捜して彷徨うみっともないヴィンセント・ギャロ。『ヴァージン・スーサイズ』の理由を明かさず自殺するキルスティン・ダンストたち。『マン・オン・ザ・ムーン』の自分が面白いと思うものを理解してもらえないジム・キャリー。『リング0 バースデイ』の周囲から怖がられ、殴り殺される仲間由紀恵。『17歳のカルテ』の他人を傷つけることで自分を守るアンジェリーナ・ジョリー。彼らに自分を重ね、自分が抱える孤独は自分だけのものではないと知った。独善的な自己憐憫は溶解していった。

 

 『シン・レッド・ライン』に溢れる繊細な詩情や『BROTHER』に満ちた死の匂い、そして『回路』に漂う虚無感に癒された。人間がただの肉塊のように死んでいく『スターシップ・トゥルーパーズ』や『プライベート・ライアン』『ザ・グリード』『ガメラ3邪神〈イリス〉覚醒』『バトル・ロワイヤル』を観ると元気になれた。人形を破壊しまくる『スモール・ソルジャーズ』も元気をくれた。

 

 『ファイトクラブ』の倒壊するビルに歓喜し、原作本を買って、美しい言葉の数々を蛍光ペンでマーキングした。『マトリックス』でマリリン・マンソンを知り、来日ライヴに行った。『サウスパーク 無修正映画版』の燃えるケニーに笑い、『マグノリア』で悲痛な告白をするウィリアム・H・メイシーに泣いた。僕はスクリーンの前でだけ泣き顔と笑顔を見せた。

 

 高校卒業のお別れ会を欠席して、『アンブレイカブル』を観た。160キロのベンチプレスを持ち上げたブルース・ウィルスを目にした息子が感動に震えたとき、僕も同じようように震えた。

僕には友だちがいなかった。でも自分が好きな映画を、同じように好きな人間がいるって考えると、淋しくなくなった。

 

 あの頃はなんであんなに苛立っていたのか分からない。大人になって、いくらかはマシな人間になった。少なくとも、人を傷つけたくないと思っている。人がいっぱい死ぬ映画が好きだし、そうゆう映画も撮ってきたが、無残に人の命が奪われる現実は辛い。見たくない。世界を襲う不幸が一刻も早く過ぎ去ることを祈っている。

 

 いくらかマシな人間になれたのは、映画館で出会った映画のおかげだ。映画がささくれだった10代の僕を救ってくれた。

 

 「映画館を救うより、命を救うために優先することがある」と考える人もいるだろう。でも映画館があったから、救われた命もある。映画館を救うことは、この世で彷徨う荒んだ心を救うことになる。きっとそうだ。

 

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▼内藤瑛亮監督 待機作品

許された子どもたち
近日、シネマスコーレにて公開予定

公式サイト

 

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