ユーロスペースで『自分の事ばかりで情けなくなるよ』を上映したのは2013年だった。トークイベントがない日も毎日ユーロスペースに通って、見た直後のお客さんの表情をこっそり覗くのがやっとで、でも時々自分に気付いて熱い気持ちを何度もぶつけられた。あの映画はクリープハイプというバンドと一緒に作った映画だったので、映画をあまり見たことがないようなバンドのファンも詰めかけた。それがすごく心地よかったのだ。
ドラマよりも音楽が好きな若い人たちが、慣れないミニシアターで映画鑑賞をして、映画についてあれこれ言いながら、ぼんやりとロビーに立っている監督に「あれってこういうことですよね!?」と目に涙を浮かべて。僕は手の内を明かさないように「まあまあ、そういう考えもありますよね」なんて言って、ごまかしてしまっていた。あまりにも、見た人の感情が作品の意図の先をいっていたのだ。自分の事ばかりで情けない映画が、観客の熱量で自分が思い描いたよりも深く、形を変えた。映画が映画館でさらに進化した気がした。
2年後の2015年、僕は、ファンの熱量を描きたいと思って『私たちのハァハァ』という映画を作った。これはユーロスペースで見た人たちの熱に浮かされて作ったと言っても過言ではない。そしてまたその映画もテアトル新宿で上映され、その後ロビーで、たくさんの気持ちを浴びた。手には『1000kmカルピスソーダ』という劇場さんが作ってくれたオリジナルドリンク。甘酸っぱくて刹那的な味。そう、お客さんだけじゃない、オリジナルグッズ、各地のロビー展示、劇場さんの熱意。映画は台本から、現場から、ポスプロから、宣伝から、上映まで、すべての行程で進化し続けるのだ。
そうやって劇場で浴びた熱量で、作品を作りたい。今は次作の編集中だが、そのラッシュをアップリンク渋谷で2回ほど行った。せめて劇場に少しでも、という思いだったが、試写室ではなく映画館で見るラッシュは贅沢で、申し訳ない気持ちになってしまった。早く劇場で映画や芝居を見たいな。それまで何とか乗り越えてほしい。「パンにはバター、ご飯には梅干し、劇場には熱量」、今のは独り言だ。
▼松居大悟監督 待機作品