旧住吉村山手の旧乾邸の住宅と庭園 〜阪神間モダニズム住宅の珠玉〜 | まちづくりBlog

まちづくりBlog

発行:本山北町まちづくり協議会/編集:広報部会

●台風19号の被害に遭われた皆さまに、お見舞いとお悔やみを申しあげます。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

本山北町まちづくり協議会では「本山北町全部募集中」と称して、地域の情報を幅広く集めています。

ご応募いただいた情報は、ブログなどのツールを利用して公開し共有できるようにしています。

今回、本山北町6丁目の二宮氏よりご投稿いただいたのは「旧乾家住宅と庭園」に関する情報です。

----------------------------------------------------------------------------------------------------

#旧住吉村山手 #旧乾邸 #阪神間モダニズム #歴史 #文化

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

拙稿「阪神間モダニズムを担った木子七郎(キゴ シチロウ)の作品群 〜岡本の洋館から見る軌跡〜 2019年7月20日掲載に引き続き我々地域の直近にある名建築について記述してみる。

 

神戸市東灘区住吉山手5丁目1-30に所在する神戸市指定有形文化財「旧乾邸住宅」と神戸市指定名勝「旧乾邸庭園」である。住宅部分の指定対象は主屋1棟、ガレージ1棟、土蔵2棟、付廊下、待合所1棟、塀174.42mであり、建築年代は昭和11年頃であり、指定年度は平成20年度(待合所は21年度)となっている。一方庭園部分は指定対象として、和式庭園、洋式庭園、前庭が、流水鑑賞式庭園として昭和12年頃の作庭として、平成24年度に指定を受けている。

住宅部分は、敷地面積3870.50㎡、建築面積472.63㎡(主屋380㎡、その他92.63㎡)、延面積861.35㎡(主屋720.92㎡、その他140.43㎡)となっている。

住宅部分の構造形式は主屋:RC造一部木造3階地下1階建、ガレージ:RC造1階建、土蔵:RC造2階建、付廊下:木造1階建、待合所:木造1階建となっている。

(註・二宮、RC造とは鉄筋コンクリート構造)

—以上神戸市作成文書より抜粋—

 

この「旧乾邸住宅」と「旧乾邸庭園」は“阪神間モダニズム住宅”の中でも最高傑作として夙に有名である。設計は渡辺節建築事務所(註・二宮、渡辺の“辺”は旧漢字である)、施工は竹中工務店である。

 

 

(写真①旧乾邸を北東面より見る)

 

設計者の渡辺節は明治17年(1884年)に生まれ、昭和42年(1967年)に82才で没している。

東京帝国大学を卒業した日本を代表する建築家であり、近畿を中心に商業ビルに多くの有名な作品を残している。ごく一部であるが、彼の代表作品の一端を写真で紹介してみる。

 

 

(写真②旧乾邸設計者・渡辺節)

 

(写真③大阪市中央区綿業会館・重要文化財)

 

(写真④旧大阪商船神戸支店)

 

(写真⑤広野ゴルフ倶楽部のクラブハウス)

 

(写真⑥城陽カントリー倶楽部のクラブハウス)

 

その他にも時代は前後するが、大阪市北区の旧大阪ビルヂング(通称旧大ビル)京都市下京区の旧丸物百貨店など我々年代の者には懐かしいビルの名前が出てくる。

 

さて、旧乾邸であるが、神戸の海運五人男と称された乾財閥4代目当主の乾新兵衛(代々、新兵衛を襲名)である乾新治がその財力を使って旧住吉村(現神戸市東灘区の一部)の住吉川沿の山麓部の南斜面に当時の金額で40万円(現在の貨幣価格で約20億円と推定される)を費して短時日の間に完成させた“阪神間モダニズム住宅”の珠玉であると筆者二宮は考える。

 

 

(写真⑦四代目乾新兵衛・乾新治。写真提供神戸市行財政局)

 

この建物は、平成5年(1993年)に5代目当主乾豊彦が死去し、養父の4代目新治から受け継いだ邸宅であったが、相続税として国に物納された。平成8年(1996年)以降は神戸市が国と委託管理契約を結んでいたが、平成22年(2010年)11月に神戸市都市開発公社が国から購入決定をして、現在では神戸市より、旧乾邸管理委託先として一般財団法人住吉学園、山田区民会、旧乾邸管理会が管理保存をしている。

建物そのものは常時公開はされておらず、公開される日時には全国から入場希望見学者が入場券を求めて多数応募している。

筆者二宮は2019年(令和元年)5月の公開に参加し、内部を見学し写真撮影をした。

その内部写真を添付の“諸室の平面構成”—資料提供神戸市—に従って掲示してみる。

なお、写真の場所の確認は念のため筆者二宮が一般財団法人住吉学園藤本氏の確認を得た。一方併せて「旧乾家庭園」についても記してみた。

この和式庭園、洋式庭園、前庭の計2510.03㎡が名勝指定を神戸市から受けている。これも撮影した写真で説明をしてみたい。

 

 

(写真⑧1階の車寄せを東から玄関方面を見た写真)

 

(写真⑨1階の車寄せを西から東方面を見た写真)

 

(写真⑩1階の車寄せから北側(山側)方面を見た写真)

 

この車寄せ部分は竜山石の自然石で壁面と列柱が積み上げられていて車寄せからしてこの住宅の美しさが特徴づけられている。

(写真⑪⑫⑬)は1階の暖炉のあるゲストルーム、豪華なシャンデリアが吊るされており、部屋には暖炉が設けられており、その暖炉上部には、小磯良平画伯の女性の画像が掲げられている。

様式はマナーハウスで使用されていた形をとっている。(註・二宮:manor house 中世ヨーロッパの荘園(manor)において領主の荘園主が建てた邸宅)

 

 

(写真⑪)

 

(写真⑫)

 

(写真⑬暖炉上部に小磯良平の画像 見学時の筆者)

 

(写真⑭2階から直接ゲストルームへ降りる珍しい階段)

 

(写真⑮玄関ホールにある陶板製の額)

 

(写真⑯1階から2階へ向かう階段)

 

(写真⑰2階から見た玄関ホール)

 

この写真⑯⑰は吹き抜けの高い天井を持ちチーク材の用材に彫刻されたスパンドレル(階段の手摺り)が美しい。又、階段横の壁のタペストリーは安芸の宮島が描かれており、これもまた壁面を大きく飾っており圧巻である。

 

 

(写真⑱2階にあるゲストルーム)

 

この部屋からは1階のゲストルームが見下ろせるようになっており、(部屋の左手に小窓がある)1階に来ているゲストが誰であるかを確認できる仕組みになっている。

 

 

(写真⑲1階の夫人室)

 

(写真⑳1階の夫人室)

 

1階にある夫人室はこの洋風建築の中で落ち着きのある純和風の部屋となっている。

 

 

(写真㉑は3階のサンルーム)

 

ゲストルームの上部に設けられたサンルームは建物全体から見ると3階部分となる。アールデコ風の造りとなっており、南側には街と海、北側には六甲山麓の緑を眺めることが出来るバルコニーからの眺望も素晴らしい。

 

 

(写真㉒3階サンルームのバルコニーからの南側の眺望)

 

 

さて、次に旧乾家庭園に移る。

 

(写真㉔洋式庭園から見た主屋の南面)

 

(写真㉕は和式庭園であり、主屋の西側に位置している)

 

(写真㉖は土蔵側から見た主屋の西面である)

 

(写真㉗)

 

写真㉗は、かつてあった主屋とつながっていた和館(現存せず)の設計図。庭園の前庭部分はこの建物の正門からカーブをして主屋玄関に至る部分で東側には築山もあり、玄関付近は竜山石を石積風に造って、車寄せへと続いている。また主屋南側の洋式庭園はテラスが設けられた芝生が広がり、3階のサンルームから見渡せるこの洋風庭園は広々としており芝生越しに見渡せる住吉近辺の街並、その奥に見える海の眺めが素敵である。

 

主屋の南西側にある和式庭園は、かつてここにあった和館と相まって、主屋部分とは対照的な和風空間を提供している。

流水鑑賞式庭園であり、モチーフは和館(現存せず)左方の深山から水が流れ出て、やがて大海に注ぐ風景が、この作庭に込められていると言われており、その意図が写真㉕から汲み取ることが出来る。

 

この旧乾家住宅並びに庭園はその優れた昭和の“阪神間モダニズム”の代表的な傑作のため、春秋2回の公開時には全国より入場希望者が殺到すると聞いている。

令和元年秋季公開も11月に行なわれる。

拙稿執筆に際しては、一般財団法人住吉学園事務長藤本幸治さんの御協力をいただいた。

 

 

令和元年9月25日・記

二宮健(協議会監査役・旅行評論家)

 

 

[入力・編集:FKV武田]

[10/16訂正:写真㉓神戸市提供の「庭園地図」とキャプションをつけたものは「諸室の平面構成」図の誤りでした]