人体展望 | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

 「人体展望」

 

   Ⅰ

 

身体を

眺める

 

鉛筆一本に

ひねる蛇口に

 

薬箱の一錠に

一足の靴下に

 

目覚めた

瞬間

 

問いかけから

はじまる

 

   *

 

すると

すべてが

 

無我夢中で

語りはじめる

 

たましいの奥が

うねり出し

 

あの空に

あの路地に

 

いのちは

激しく闘っている

 

   Ⅱ

 

いつの間にか

人間は

 

ワタシとモノで

物語を描くようになった

 

主人公はワタシ

その他はモノ

 

万物はワタシが

生きるための手段でしかない

 

   *

 

花に止まる

ミツバチ

 

羽をつくろい合う

マガモたち

 

自然は

常に

 

あなたとわたしで

生き合っている

 

   *

 

地上でいちばん

チッポケで弱くって

 

一人じゃ

なにもできないくせに

 

それをいちばん

わかっていないのは

 

人間という

どうしようもない生き物

 

 *****

 

ある日届いた

無記名のプレゼント

 

それは確かに

気高く美しく

 

子どもたちは

どんなにか

 

喜んだに

違いないでしょう

 

   *

 

部屋の片隅で

包みをあけながら

 

一人のぼうやが

つぶやきました

 

ママって

どんな匂いなんだろう

 

プレゼントは

黙って転がっていました

 

 *****

 

一人じゃ生きていけない

ようく分かった

 

だから

誰かと契約を結んでおこう

 

困ったときに

助けてもらえるように

 

何とか

自分たちが生き残れるように

 

   *

 

いのちを

侮るな

 

絆とは

なにか

 

人類よ

気づけ

 

地上が

廃墟と化す前に

 

   Ⅲ

 

探しているうち

なにを探しているのか分からなくなりました

 

山はますます深くなり

闇はますます閉ざされます

 

あそこに灯る

ひとつの明りは

 

敵か

味方か

 

ただひたすら

そこに向かって歩いていったのです

 

   *

 

だれも生まれてきたのは

伝えることがあるからです

 

西には西の

東には東の風が吹きます

 

この足の下の土に

骨は帰ってゆくのです

 

残された時間

さらに

 

身体の奥に

下りていくのです

             motomi

 

※ 日々一枚一枚脱ぎながら、初めの姿に帰っていきます。