六本木の公認会計士いきぬき (息抜き編) -252ページ目

株式公開(IPO)を取り巻く関係者たち

さまざまな事業で明るい話題の少ない今日この頃であるが、


今回、クライアントとして関与している会社が上場申請をすることになった。


上場にはさまざまな利害関係者が関与する。



まず、クライアントの株主であるベンチャーキャピタル。


ベンチャーキャピタルは、クライアントに資金だけではなく、

人材や人的ネットワークまで供給している。



それに、主幹事証券会社。


特に窓口となる営業さんや、公開部のコンサルタントさんは、

証券市場へのアプローチを担うとともに、会社にとっては羅針盤となる。



次に、監査法人。


公認会計士集団である監査法人は、

適正な財務諸表の作成と内部統制の整備・運用を指導し、監査する。


監査とは、会社の財務諸表や内部統制の内容を吟味して、

公認会計士の名において、適正であると、お墨付きを宣言することである。



そして、上場書類を専門とする印刷会社。


上場に必要な書類は膨大だ。

今日の上場は印刷会社による専門的サービスが欠かせない。



最後に、IPOに関するコンサルタント


証券会社や監査法人の公開部などに勤務経験がある公認会計士等が、

上記のコーディネートをおこない、時には企業に入り込んで実務を指揮する。



これらの関係者が一堂に会して行う、キックオフパーティー。


一年後には、無事に、上場記念パーティーができますように。


介護ビジネスと給料

A社は、有料老人ホームやデイサービスなどの介護事業を手がける。


介護ビジネスは、原価の約7割が人件費となる。


また、参入に特別な規制もなく、現在の日本には労働力が溢れている。


このように、人件費の比率が高く、参入障壁が低い業界では、

そこで働く人たちの給料は安くなる。


実際に、介護関連業界では上場企業でも平均年収は350万円程度であり、

重労働といわれる割に薄給。


そのため離職率が高く、


平均勤続年数は3年未満だ。


このような企業では、人件費は経営者にとって


”仲間に対する分け前”ではなく、


”なるべく削減すべきコスト”となってしまう。


しかし、介護事業はこれからの社会にとって必要なサービスだ。


人件費比率が多いということは、逆に言えば、雇用も創出する。


ぜひとも、そこで働く人たちが、誇りを持てるために、高い年収をとっていただきたい。


日中は介護事業で働く若い女性が、

夜のお仕事で生活費の足しにする現在の環境は、


おかしい。

スーパー経理の給料はいくら?

これは、実際にある話を基にした、フィクションである。



現在渋谷のサービス業を営む、年商100億の会社に、一人の経理マンがいる。


彼は、商業高校を卒業後に飲食店の店員として社会に出た。


1年ほどして、軽快なフットワークが認められ、店長に昇進したが、

3年ほどして、長時間労働がたたり、

からだを壊したことから管理部門に配属されて、経理として再スタートをきった。


もともと、商業高校で簿記2級を取得していたことから、経理職に配属された。


店長時の給料は、支給総額で25万円。

年収で400万円程度であった。


経理に配属されたときには、店長手当の月額4万円が差し引かれ、

年収は350万円ほどに落ちた。


経理について4年。


会社では、ひょんなことから、50人以上のサービス会員に、

株式方式の会員権を発行することになったため、


金融商品取引法上の有価証券報告書提出会社に該当してしまった。


金融庁に有価証券報告書を提出するためには、

会計基準に準拠した財務諸表を作成し、法定の監査にも対応する必要がある。


税務会計中心の決算を組んでいた会社で、そのような専門スキルはない。


結局、彼が、監査対応をする窓口となった。


監査を受託した会計士は、愕然としたが、

どうすることも出来ないので、彼と一緒に財務諸表をつくり、※自ら監査した。


報酬の時間単価1万3千円の公認会計士に、一から会計を教わったのである。


※ほんの数年前まで、こんな監査も、また、まかり通ってた現実がある。


現在、彼は6社の子会社の決算を片付け、

連結財務諸表を作成し、有価証券報告書を一人で作る。


スーパー経理の誕生である。


上場企業で、一流大学を出た経理マンでも、彼を上回るパフォーマンスをもった人材は

見当たらない。


勉強ができたという意味での学歴と、どんな仕事でも成果を出せる仕事の「実力」とは

イコールではないのである。


現在、彼の年収は400万円。


彼は転職を試みた。


しかし、それを断念したという。


曰く。


「僕の履歴書を見ても高卒で、資格も簿記2級しかない。どんなに、僕がこういう仕事をしてますって言っても、面接官は信じてくれない。一社、上場準備をしている会社が興味を示してくれましたけど、提示された年収は現在と同じでした。」


確かに、履歴書や面接だけで、彼のパフォーマンスを見抜くのも難しい。


また、店長や経理マンであった彼には人脈も乏しい。


彼が辞めれば、現在の会社の決算は維持できないが、社長はそれが分からない。


彼の上司の総務部長(銀行出身)は、それが分かっているが、伝えない。



中小企業には、稀にこんなスーパーマンがいるが、

日本の雇用環境は、スキルと関係なく、勤めている会社で待遇が決まるように思う。


中小企業のスーパーマンの待遇は、一流企業のお荷物社員より悪い。


転職も、大手企業から中小企業に転職することは容易な一方で、逆はとても難しい。


もとい、昨年までの、監査法人には、大量合格で簡単になった

会計士試験合格者(なかには合格していないものすらもいた)が大量入社したが、

その年収は600万~800万程度である。


与えられている仕事も簡単な単純作業中心で、

高価なスーツや時計、靴を身にまとうが、一部を除いて年収に相応しい中身はない。


なんとかしなければならない。