すきなひと全集（別巻・月報付）。

こないだ
好きな本はなんですか
と聞かれて、
手、ひとの。
と答えたのだが、
あいてが、
このひといったいどうしたのかな、なにかもんだいがあるひとなのかな、
という顔をしたので、
わたしはひとの手もすきだが耳たぶもすきです。耳たぶも愛読できます
といそいでつけたしたが、
あいてはわりと、なにいってんだろこのひと、わたしがわるいのかな、いきいそぎすぎてんのかな、というようなぼんやりしたほうけたようなそれでいて虹を割ったような顔をしたので、よっぽど耳たぶさわってみようかとおもったが、しかしそれはやめておいて、
あと、こむらがえりも、
あと、くるぶしも、
あと、むこうずねも、
あと、上腕にとうきんも、
あと、恥骨も、
あと、鼻腔も、
あと、けんこうこつも、
あと、すいぞうとかかんぞうとかいぶくろとかも。
それがすきなひと全集です、
といった。
そのあと、川があったので、
手を取ってわたったほうがいいですか、
ときいたが、
いや、手はだめです、
といったので、
ふたりして、肩をならべて、じゃぶじゃぶとわたった。
そのあと、ふたりで、うすいくさはらにすわって、鬼のようにジュースをだまってのんだので、
ふたりとも、おなかが、じゃぶじゃぶした。
あ、そうだ、別巻で、おなか、もです、
と、わたしは、いった。
そうしたらあいてがわらって、うつくしいほうれい線ができたので、それが月報だな、とわたしは、納得した。