島田一男『犯罪待避線』(徳間文庫):たとえば「顔のある車輪」なんて本があったらどうよ? | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

島田一男『犯罪待避線』(徳間文庫):たとえば「顔のある車輪」なんて本があったらどうよ?

 島田一男『犯罪待避線』

 

そのほとんどが駄作といっていい島田一男のなかから、本書をあえて読むという人はあまりいないだろう。

 

何せタイトルを見ても、カバーを見ても、「人情味あふれる下町を舞台に…」とかいう紹介文を読んでも、本書がどんな作品なのか一向にわからないし、面白みのかけらもない。

 

ところが、この目次を見てくれ。こいつをどう思う?

 

第一話 瓶詰めの拷問

第二話 首を縮める男

第三話 或る暴走記録

第四話 蜉蝣機関車

第五話 顔のある車輪

第六話 座席番号13

第七話 機関車は偽らず

第八話 ノイローゼ殺人事件

 

怪奇大作戦』でもはじまるかのようなキッチュさ。なぜここからタイトルをもってこない? たとえば「顔のある車輪」なんて本がブックオフの100円コーナーに並んでたら、とりあえず手に取りそうではないか。

 

実は内容も昭和20年代の東京下町を舞台に開業医の主人公が怪事件を解決していくという連作推理で、決してタイトル負けしない粒ぞろいの一冊なのだ。

 

アパートで発見された若き女性の首なし死体と「首を縮める男」、クリーニング屋で死体を隠すならどこがいい? という悪趣味な問いかけ、神父が覗き見る退職警官の秘密だったり、殺人の実行がそのままアリバイになるという意外なトリッキーさ、ヒステリーで自殺するのは女性だ、じゃあMTFが自殺したってのはおかしいだろ? という偏見が前提の奇妙な作品だとか、格別論理やシチュエーションがすごいってことはないにしても、飽きずに読ませるネタが詰まっている。

 

初期の本格作品群には遠く呼ばないが、軽本格といえなくもない、意外な掘り出し物といったところだろう。100円ならおすすめ。

 

★★★☆☆