松本輝夫『谷川雁 永久工作者の言霊』(平凡社新書) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

松本輝夫『谷川雁 永久工作者の言霊』(平凡社新書)

 

 

 

詩人・思想家・オーガナイザーとして圧倒的魔力を奮った筑豊炭鉱時代から、炭鉱闘争後の児童教育に没頭する雁、その会社の労組と対立する雁など、知られざるその姿を概観する。新書での上梓が驚きの一篇といえる。

 

雁は、「私の中の『瞬間の王』は死んだ」といって詩作をやめてしまうわけだが、彼の本質は基本的にことばに寄り添うことなのだと、本書にて気付かされる。

なぜならひとびと、たとえば炭鉱で死と隣で日々の暮らしを営むひとびとの「原点」で沸き立つエネルギーは言挙げされることで、彼女らを結びつける。結びつき、連帯の原点はさらにひとを動かす。

それが筑豊ではサークル誌であったのだろうし、大正鉱業闘争後の児童教育、いわゆる「ラボ」ということなのだろう。

ラボ入社後の雁を描くに当たり、筑豊時代とラボ時代の双方を知る作者ほどの適任者はいないはずで、実は雁というひとが、ふたつの時代を貫いてぶれていなかったと断言できる胆力は相当なものだと思う。

ただし、「原点」だとか「工作者」であるとか目眩のするような雁の文章を読んでいたものとしては、本書のように雁の考えが綺麗にまとまってしまってもいいのだろうかという気がしないでもない。 

とはいえ、谷川雁はもとより戦後思想、言語教育に興味あるひともぜひ読んでほしい。

 

ここだけの話だが、webで本書のタイトルを見たとき、「え、大川隆法って雁まで取り上げるのかよ」と驚愕した記憶がある。