戸板 康二『黒い鳥』(集英社文庫)
いや、びっくりだよ。全然おもしろくない。
戸板のもちキャラ・中村雅楽が登場しないノンシリーズの初期短編集なんだが、歌舞伎の世界を離れると実に冴えない。とにかくロジックにキレがないのが痛い。
それでも、まったく自分と無関係の老女を引き取り、優しく優しく応対する男とその母の目的は何かという「隣りの老女」、特に働きもしないのに会社で優遇される謎の老人を描いた「いえの芸」など、老人を描いてうまさを見せつけている。
しかし、若人が登場するともういけない。実に微妙なのだ。人情話にも絶妙の論理にももっていけない、中途半端な作品が揃いに揃った一冊といえる。
「歌手の視力」1960・11『週刊朝日別冊』
「隣りの老女」1961・10『別冊文藝春秋』
「隠し包丁」1962・1『別冊文藝春秋』
「黒い鳥」1962・6『小説新潮』
「いえの芸」1962・6『別冊文藝春秋』
「鼻の差」1962・12『オール読物』
「善意の第三者」1962・12『別冊文藝春秋』
「マチネーの時間」1963・1『婦人公論 増刊号』
★★☆☆☆
(30)