笹沢左保『霧に溶ける』(光文社文庫) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

笹沢左保『霧に溶ける』(光文社文庫)

笹沢 左保霧に溶ける』(光文社文庫)

ミス・コン決勝に残った5人の美女。最終選考を前にして、交通事故・脅迫そして謎の死と次々と事件に巻き込まれる。警察が動き出すも、まったく手がかりがつかめない…

ミスコンの候補者5人が次々と犯罪に巻き込まれてゆく。となれば、そのうちの誰かが頭数減らしにやっているだろうと思うわけで、残り二人になったところでどのようにもってゆくのかと興味津々だったが、これがまたひねり方が普通じゃない。しかもタイプの異なる仕掛けを複数用いているので、どう読んでもまず真相を当てるのは難しいだろう。

そもそも笹沢の作品の雰囲気は、まったく本格を感じさせないのだが、それでもその作品の世界に浸っていると、何のことはない、見事にそれすら彼の計算のうちだったりするのだ。

彼の初期代表作のひとつである『招かれざる客』の翌月にこれだけのものを書き下ろしているとは、驚きの一言。初期作品でも圧倒的にトップクラスだ。というか、労働組合問題という背景に本格の風味をつけ加え、それなりに読後感を与える推理作家協会賞受賞作の『人喰い』を上述作品とともに完全に超えた一作といってよい。

西村京太郎もそうだが、一部の作品を読んでその作家をダメ蔵と決めつけるのはやはりよくないよなあ。そんなことを、若き日の笹沢を読むと特に思うわけだ。

初版:1960年4月 東都書房
★★★★★