最後の夏

テーマ:
不動産屋をよんで、マンションの売出しについて相談。

一週間で内覧希望者がみつかる。

売出し価格を提示した時、営業マンは「本当にこの値段でいいんですか」と聞いてきた。

ナニ、安すぎるのか?



旦那も私も、面倒くさいことと、事が長引くのが大嫌いな、即断即決型の人間。

車も買う時は一回で決める。

今住んでいるマンションは2回目で決めた。

これから、住むだろう土地も一回で決めた。



名ばかりの小さな会社を夫婦二人三脚、こねくりまわしてやって来たので、仕事の駆け引きも、風呂敷引くのも、何でもありでやってきた。

ちょっとした人生の地獄も経験させてもらった。

仕事をバリバリやっていた頃…

話の分かるおじさんおばさんはうわべだけ。

腹のうちは、お見せできない。

自営業は、しょせん、どれだけやったかではない。

どれだけ、儲かったか、その結果がどう残ったか。

見栄を張って、労苦を惜しんでいたら結果は出ない。

定年のない自営業は死ぬ程、やってもきりがない。

ホントに死んだら意味がない。

ならば、と

さっさと引退して、隠遁生活を始めた。

それからは、

ただの、爺、婆になって、無為徒食の生活。

動物園のライオンのように餌の心配がなくなれば、そりゃー、野生味もなくなりますよ。

やりて婆も、すっかり、世間に背を向け、ひきこもり。

今や、諸々の欲望も、生きる興味みたいなものも、すっかりなくなった。

そんな、私が、今一度、何とかならないかと、一大決心したのが、家の住み替え。

一番の理由は

「ここは人間の住むところではない」

そんな、「人間の住むところではない」我家の内覧に来たご家族の奥さんの玄関に入っての第一声、

「素敵ー」

出迎えた私も、リビングで聞いていた旦那も、心の中で「よっしゃー」

マンションにしてはゆったりとした玄関ではあるが、なにか、入って来た時からの、相手の意気込みが伝わってきた。

多分、何よりは、マンションの価格に惚れ込んだのが一番ではないだろうか。

まけろ、まけない、の駆け引き無しの値段。

もう、面倒くさいのは、ごめんだ。

リビングで、お茶を出し、売る方、買う方両家の歓談のいい雰囲気。

始めて会ったとは思えない、笑い声が起き上がり、盛りあがる話が続く


同年代と、お見受けした。

なぜか旦那さんは「オレはマンションは嫌いだ」と言いながら上機嫌。

うちの旦那も、「最上階は金があるからと言って買えるもんじゃありませんョ」などとしっかり営業トークで、ギャハハと普段見せたことのない笑い声をあげていた。

「私に任せて下さい」と自信いっぱいだった不動産屋は、側にいても、何も口出しできない。

一発即決。

それにしても、久しぶりに、スイッチの入った我家の「話の分かる男」をみた。

現役の時のような、営業トークに愛想笑いを、久しぶりに聞く。

昔、中央からやって来る得意先の飲みの接待では、一滴の酒も飲まず(飲めないから)、相手を最後までいい気分にさせて送り帰す、得意技。(私は、ひたすら飲み担当)

今、普段は、苦虫をつぶした怖い顔の、めったに笑わない男になった。

「えー、何ー、あんな笑い方するんだー」とからかうと

「俺だって、やる時はやる」

だって



掘っ立て小屋が建つのが、十一月。

この家で過ごす最後の夏になるけれど、それにしても、暑い毎日です。