ピラミッドを地下から頂上まで探索したが、鍵を探し出すことが叶わなかった。
鍵を手に入れられず、ロマリア国の西の扉が開けられないことにより、ポルトガなる国に渡り、船を都合するのは、どうしても諦めねばならなかった。
泳ぐしかない。という結論が出た。あまり時間をかけられない。
一先ず、アッサラームに戻る。久しぶりに宿屋を利用する。薄汚れた全身を、洗い清める。
何故か私を慕い寄ってくる、さ迷う鎧らの情報によれば、バラモス城までは歩いても、泳いでも辿り着けないようだ。しかし、地道に近づいて行くしかない。
一眠りしたのち、早々に北上する。
対岸の祠に渡り、東に進む為は、湖を泳ぎ切るしかない。兜も鎧も、脱ぎ捨てた。どうにかして対岸に運べないものかと思案していると、叫び声を耳にした。
振り返ると、山猫属キャットバットに囲まれている、か弱い少女の姿があった。
盾も持たず、鎧と剣を携えたシンプルな・・・女戦士。裸体に近い格好(他人の事は言えないが)で、上空からの翼と爪の攻撃に苦戦し、両側に縛った髪を振り乱している。
急いではいたが、駆け寄り、キャットバットを打ち払ってやる。

「平気か?」
「た、助かりました……」
「どこから来た?」

お互いに旅人だろうが、一応尋ねるのが、礼儀みたいなものだった。

「あなたは?」

パンツ一丁に(今はな)、怪しい覆面を被っている私に、物おじせずに聞き返してくるとは……。容姿も度胸も、並ではない女戦士…というわけか。

「アリアハンのオルテガだ。斃さねばならぬものを……捜し、討つ旅をしている」
「どうして覆面を?」
「疵だらけでな……見たものが驚かぬように…って、私のことは良い。むすめ、君は?名は?」

いつの間にか、その娘の瞳に引き込まれそうになっていた。私は先刻までは急いでいたのだが……。

「…咲耶。アテの無い、独り旅の途中よ」
「さくや…か。年頃の娘には、必然な旅立ちなのかもな……」
「ねぇ……わたしを伴いたい?」

突然言われたが、真意を見抜けた。試すような瞳だった。

「……」
「魅力が……無い?」

  ・・
その類いの、誘いには乗るつもりは無かった。キャットバットごときに手こずる実力のものを。どう見ても、足手まといだ。
答は NO だ。私には妻も子も居る。

「何ができる?」

先程とは逆に、聞き返してやった。少々意地が悪いが、何故かこの娘と、会話を続けたかった。



続く
ひとり、居なくなった。
時折、何気ない相談をし合える…頼れる年長の一人だったのに。
涙ぐむ雛子と四葉が言うには、『止めきれなかった』そうだ。この二人が悪いわけではない。
一体、何を考えていらっしゃるのか。目的はどうあれ、一人旅は危険過ぎる。ましてや、戦士……。
誰も伴わない姿勢と、プライドの強さや、普段からナイーブさを隠しての振る舞い、殿方をリードしたがりな性格や、秘められた切なさも、弾む声も、肌荒れ箇所も、春歌は把握していたつもりだった。
把握はしていたが、乙女心は、同じ妹同士・・では制御できない。湧いてしまったものは仕方ない。
咲耶は、自らのこころに従った。それでいいと思う。一人の兄を慕う12人の妹達との馴染み切った関係と、穏やかな環境の中で、抜け駆けや背伸びが禁忌とされているわけではない。

ゆるされていることは たくさんある。
はじめていけないことは なにもない。

睫毛を震わせる可憐に、鈴凜にも知らせてくると言いかけたが、まだ船が戻ってきていなかった。
動揺していないのは、千影、鞠絵、白雪、亞里亞だけだった。
『きっと、花穂がドジだから~』と自虐する花穂を、衛が心底困った顔で慰めている。

「ー」

アリアハンを出たものの、苦労の連続だった。
雰囲気を重視し、夜中に出立したものの、同室の二人が起き出してしまった。二人を説得するよりも、何か覚悟のようなものを告げて、跳ね退けた。
公式な女戦士装では、露出が多過ぎるので、特に朝方は寒かった。咲耶の最初の敵は、冷えだった。
レーベ村の防具屋の主人を魅了して、無料で戴いた革の鎧を装備しただけだったが、預かり所から勝手に持ち出した、銅の剣が重たい。
魔物・モンスターとの遭遇戦。磨き込んだ珠の肌を傷つけさせるものかと、戦いに明け暮れ、両側に縛った髪を振り乱した。

わたしは わたしだけど
わたしは お兄様の ……

知りたくない答えなど、なかった。わたしの問いにこたえてほしい。わたしだけと、向き合って…そして、こたえてほしい。
アッサラーム辺りでは何度もナンパされ、パーティ加入への強引な誘いも、当然、断ったわ(蹴散らした)。
寄り添いたいのは、お兄様だけ…なのだから。
洞窟に居た髭のおじ様がツンツンしていたので、どうしても通れなかった…。
軍資金が不足し、アッサラームでアルバイトをしていたのはお兄様には内緒なんだけど…。
北で予想外な出会いが…。



続く
…反射的にやってしまった。
右手が痛む。壁から生えている仮面……のようなものを殴りつけていた。

ひ・・き・・か・・え・・せ・・!

やっべ、破損してしまったか?
試しに、申し訳程度に少し引き返すと、壁から声はしなかった。何なんだ……?壊れたのか?
何かの仮面……、どんな仕掛けなんだろうと近寄ってみると、

ひきかえせ!

って言われる。静かな最深部なだけに、喧しい。まぁ言われるままにしたら、トイレに辿り着けないですからね。我慢の限界ですよ。アタマにきた。
殴りつけた仮面から一つ離れた仮面には、ブーツの爪先を食わしてしまっていた。二度目の、破壊行為。ああ、やってしまった。怪物や魔物が騒ぎを聞き付けて寄ってくるかもしれないのに、考えナシだったな。

・・・謝ろう。

「ー」

曲がり角。曲がるなり

ひきかえせ!

「ヤだね!」

ひきかえせ!

「…ごくろーさん」

こんなやり取りで色々なものを紛らわせてました。……が、本当に引き返した方がいいのかも、という気持ちにもなってくる。一応、仮面より低い位地で屈んで通過したり、這ってみたりもしたが、仮面の仕掛け、秀逸。

ひきかえせ!

「……」

進む足取りが、重い。

「ー」

木製のドア。手袋越しに触れた。
遂に、到達した!僕はランシール地方の、へそ愛好者の巡礼地で、











特に何も考えずに、ドアをノック。応答・・・無し。ドア、オープン。
中をちらっと見た。壁際。

ひきかえ・・・

や っ ぱ り な

罠。…というほどでもないビックリ仕掛けだ。でも慌てて入らなくてよかった。蛇口から一回こぼしたので、もうリミット/ブレイクは、できないので。閉めたドアに寄り掛かる。槍を立て掛けながら、ドア部に札のようなものが見えた。アレ?さっきは無かったぞ?


*えいぎょうじかん*

AM9:00~PM5:00

       ****

かろうじて見えた。なあに?これぇ?
そもそも、今、何時かワカリマセン。さっさと済ませよう。



*しばらくそのままでお待ち下さい*



仮面と睨み合いながらの、用足し。やっぱり

ひきかえせ!

って言われたけど、今引き返したら、大変なことになるから、ここの配置は間違っていると思う。

トイレ外の槍が倒れたのか、物音がした。やや右上にぶら下がっている鎖を引き下げた。水洗だ。



続く