「あの曲を歌ってた人
  死んじゃったんだ」


テミンが遠い目をしてる

その人のことを思い出そうとしてるのか


「もしかして、知り合いとか?」


我に返ったように俺の顔を見て

「僕のヒョンなんだ
 って言っても、実の兄貴じゃなくて
 隣の家のヒョンなんだ」


そうか

テミンの顔を見たら、大切な人だって分かる

「もしかして、そのヒョンの影響だとか?」

「忘れられてくのが嫌なんだ
 ヒョンのことも、ヒョンの歌も」


それで、あそこでやってるのか

「なんで歌わないんだ?」

「え?
 ・・だって、・・ヒョンの声じゃないから」

「でも、歌も聴いてみたかったな」

なんとなくそう思って口にした


テミンはそれきり口を閉じた

俺も黙ってカレーを食べる

これ以上は踏み込んではいけない気がした


アドバイスを参考に、ストリートライブに再挑戦することを約束してテミンと別れた





大学に行くのは久しぶりだ

家にこもって、カバー曲の練習をしていたから

単位はギリギリだけど、なんとか卒業はできそうだな

そうだ! まずは掲示板だな
あの日のことを思い出した

うん、今日は休講はないな

ひと通り見終わって振り向くと
すぐ後ろにいるチャンミンと目が合った

「チャンミン!
 久しぶりだね、元気だった?」

ラッキーってなもんで、ご機嫌で話しかけたんだけど

「呑気な物だな
 サボってばっかりで卒業できるや否や」

なんか不機嫌?
まあ、もともと愛想のいい方じゃないけど

「俺の心配してくれんのか?」

「バッカじゃない!
  誰が他人の心配するか!
 世の中にはいろんな奴がいると思っただけです」

へぇ、まあいいや
口をきいてもらえるようになっただけでも進歩だよ

「俺になんか用か?」

「この前の借り
 返そうと思って」

なんのことだ?

チャンミンはズボンのポケットから財布を取り出している

「いくらだった?」

ああ、薬局のことか

「別にいいよ
 俺が勝手にやったことだし」

「こっちが良くないんだよ
 じゃ、これ」

札を何枚か取り出して渡そうとするから

「じゃ、スーパーで買ってくれよ
 欲しいものがあるんだ
 いいだろ?」

面倒くさいなんて言いながらも
金を財布にしまって
横に並んで歩き出した


ふふ

歌い出したい気分だ

チャンミンが隣にいて
一緒に買い物するんだぞ


「鼻唄なんて歌って、楽しそうですね」

口調に反して声は尖ってない


スーパーに入ると
ペット用品の売り場に直行
缶入りのネコの餌を手に取った

「これが欲しい!」

「はぁ?ネコ飼ってんのかよ?」

「いや、チャンミンのネコ!
 餌をやるときは一緒にいたい
 ダメ?」

「なんであんたが?」

「ネコにお礼したいんだ
 チャンミンに会わせてくれたから」

「アホか?
 それに、俺のネコじゃないし」

心なし、顔が赤いような・・

「じゃ、俺の勝手にするよ
 だいたい、お昼頃だよな?」

「知らね」

ぷいと横向いて歩け出すけど
少し行ったところで止まってる




好きだよ、チャンミン

受け入れてもらえなくても

好きでいさせてくれよな




続く