糖尿病の治療のほうは、とても順調で、
いったんインスリンが終わるという奇跡が
おきた。治療開始からわずか1か月半。
医者が膵臓からのインスリンが正常に
出てきているという判断。
いくら糖尿病家系ではないとは言え、
あれだけ重症だったのに、短期間での
急速な回復。うれしいんやけどなっ。
でも、そう言ってられないのは目のほう。
糖尿病網膜症は短期間で起きるものではなく
年数を重ねて悪化していくもの。
つまり、網膜から出血しているのは、
もうかなりの時間を要したものであり、
こちらはそう簡単に治るわけがなく、
「手術しないと、見えるようにはならない」
そう言われた。でも、逆に言えば、
手術さえすれば、また見えるようになる。
とは言え、入院を必ず伴う手術。
手術時間は2時間半~3時間。
局所麻酔で、痛みは伴うもの。
音は普通に聞こえるし、
目に器具やメスが入っていくのが
確実に見える。
怖くなり首を動かすと事故になる。
ね、これって、拷問やで。
けど、これに耐えないと目は戻らない。
いざ、その時になって血圧爆上がりも
あるかもしれない。
それよりも、術後1週間は最短でも入院。
仕事に穴をあけることになり、確実に
迷惑をかけることになる。
介護福祉士の試験はもう受けないと
決め込んでいるので、それはどうでもいい。
今なら年末に手術が出来ると言われたけど、
年末の超忙しい時期に手術なんかしたら、
入院したまま年越し。年明けの忙しい時も、
病院のベッドの上で過ごさないといけない。
これは、自分としてもきついし、職場もだ。
今、手術を決めるのはいけない。
そう思い、医者にはまだ検討させてくださいと
伝える。
「気持ちはわかるけど、もし悪化したら、
網膜剥離とか最悪は失明になりかねない」
そう言われた。
それでも、俺の考えは揺るがなかった。
この時の俺は、自分のことよりも、
自分以外のことを考えていた。
なんとしても、年内の手術は避ける。
この意地が、その先の自分の運命を変える。