黄色い花フランダースの犬  ストーリー詳細 黄色い花


52話 天使たちの絵
 パトラッシュには、なぜネロが自分の側から姿を消したのかわかりませんでした。でも何か大変な事が起こりつつある事は鋭く肌で感じとっていました。コゼツ家の暖かい暖炉もおいしそうなスープの臭いもパトラッシュを引き止める事はできませんでした。ただネロを探す事だけが疲れ果て年取ったパトラッシュの頭の中でいっぱいだったのです。
 ノエルじいさんはコゼツ旦那の家でハンスを問いただします。「風車小屋に火をつけたのはネロではない、ハンスやコゼツが油もささずに風車を使い続けたからだ。それをネロが火をつけたと言いふらしたのは誰なんだ?」と。コゼツ旦那とハンスはネロに謝る為、ネロの家を訪れる事にしました。一足先にヌレットおばさんがネロの家に来ていたのですが、おじいさんやネロの姿が見えません。そこへネロを迎えに来たミッシェルおじさんもやって来て、ヌレットおばさんにジェハンじいさんが亡くなった事を告げます。ヌレットおばさんはたいそう悲しみましたが、ネロの姿はどこにも見えず、ミッシェルおじさんとヌレットおばさんは姿の見えないネロを探しまわりました。そこへアロアやコゼツ旦那、ハンスがやって来てネロの置き手紙を見つけたのです。
 その置き手紙には次のように書かれていました。「ハンスさん、とうとう家賃の残りが払えなくてごめんなさい、足りないかもしれないけれど残った品物を代わりに受け取って下さい。もう僕にできることはそれしかないんです。エリーナおばさん、長い間親切にしてくださってありがとう、パトラッシュを頼みます。アロア、さようなら」
 そこへジョルジュとポール、そしてヘンドリックというコンクールの審査員をした画家が訪れます。ヘンドリックはネロの才能を認め、アントワープが世界に誇るルーベンスの後継ぎとなりうる素質があるから、ネロを引き取って絵の勉強をさせたいと言うのです。しかし肝心のネロは家を飛びだした後でした。コゼツ旦那は「絵ばかり描いている貧しい子供が娘と親しくなるのが気に入らなかった。ただそれだけの事でこの村から追い出そうとさえ考えた。それに引き換えネロはわしが落とした全財産にも相当する大金を拾って届けてくれたのだ。ネロ、許してくれ」と詫びるのでした。そして村人全員で猛吹雪の中ネロの捜索が始まります。ハンスは村の一軒一軒を訪ねてネロがいないかを確認し、コゼツ旦那はネロを家に迎えてアロアと同じようにどんな勉強でもさせてやるとさえ言うのでした。しかし村人の捜索にもかかわらずネロとパトラッシュの居所はまったくわかりませんでした。そしてアロアはネロがコンクールに出したおじいさんの絵に向かって言うのでした。「ネロ、あなたが描いた絵は誰にも負けはしなかったのよ、それなのにどうして行ってしまったの。ネロ、お願い、帰って来て」と…
 ネロはおじいさんに別れを告げた後、夢遊病者のように猛吹雪の中を歩き続けました。途中何度も倒れ、倒れては起き上がり、起き上がっては倒れる事を繰り返しながら… 気がつくとネロは手袋も靴もどこかに落とし、裸足でアントワープの町に来ていました。その時ネロは大聖堂のマリア様の絵を思い出し、大聖堂に向かって歩きはじめたのです。パトラッシュもネロの落とした靴をくわえ、ネロの足跡を追って大聖堂に向かいます。
 大聖堂に入ったネロは、いつもカーテンのかかっているルーベンスの2枚の絵が公開されている事に気付きます。とうとうネロは夢にまで見たルーベンスの2枚の絵を見る事ができたのです。「とうとう僕は見たんだ、素晴らしい絵だ。ああマリア様、ありがとうございます。これだけで僕はもう何もいりません」そう言ったネロは喜びのあまりその場に倒れ込んでしまいました。そこへパトラッシュがやって来てネロのもとに座ります。パトラッシュが自分のもとに来た事を知ったネロは「パトラッシュ、お前、僕を探してきてくれたんだね。わかったよ、お前はいつまでも僕と一緒だって。そう言ってくれてるんだね、ありがとう。パトラッシュ、僕は見たんだよ。一番見たかったルーベンスの二枚の絵を。だから僕はすごく幸せなんだよ」そう言ってネロとパトラッシュはルーベンスの絵を見上げます。ネロはルーベンスの絵が見れた事で幸せいっぱいでした。しかしネロもパトラッシュも寒さと疲労と空腹の為、その命を閉じようとしていたのです。「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。何だかとても眠いんだ。パトラッシュ…」ネロはそのまま倒れ込み再び目を開ける事はありませんでした。ネロの異変を感じ取ったアロアは吹雪の中を駆け出し、泣きながらネロの名前を絶叫するのでした。
 やがて大聖堂の天井からほのかな光がさし込み天使たちがネロとパトラッシュを取り囲みます。天使たちはネロとパトラッシュを連れて空高く舞い上がって行きました。そしてパトラッシュがネロの乗った荷車を引き、お母さんやおじいさんのいる遠いお国へ旅立って行ったのです。もうこれからは寒い事や悲しい事やお腹のすく事もなく、みんな一緒にいつまでも楽しく暮らす事でしょう。