著者は学生時代、アルバイトで辛い思いをし、就職活動でも嘘で塗り固めた自分を振る舞うのに息苦しさを感じていた。
そんな中、自分の好きな事をして自由に生きている人に共感し、就職するのを辞めて喫茶店を開店することになった、という自伝の本である。
人生の勝ち負けは、収入の多さとか、有名企業に勤めているとか、そういうことではないと思い知らされる本である。
そもそも勝ちとか負けとか考えている時点で幸せではないのかもしれない。
非常に正直に自分の心の葛藤とかを書いており、読み物として引き込まれる本である。
もしゴーストライタ―でなく自分で書いたのなら、この文才こそが才能ではと思うほどである。
もちろん誰もがこの著者と同じことをしたら、同じように生きられるという訳ではない。
小中学校の頃は部活の部長をやっていたり、リーダー的な明るい存在だったと自壊している。
そういう素養が、喫茶店の開業という行動力に繋がっている面もある。
しかしそのことを除いても、「働くとはどういうことか」を考えさせられる本である。
よく勘違いしてしまうのは、「ラクをしたい」と「好きなことをしたい」の混同である。
人間には2種類の欲望がある。
仕事が大変で辛くなったとき、逃げるように辞めてしまうのは「ラク」に逃げてるだけの可能性がある。
そこに気付かないと、その後行動を起こそうというモチベーションにはなかなか繋がらない。
著者は、喫茶店を開店して2ヶ月ほど経った頃、喫茶店に行くのもしんどくなり、しばしば休業したという。
すると、「行っても開店してないことが多い店」だと思われ、お客さんが激減したという。
それを挽回するため、朝オープンしてモーニングを提供しようと試みたりしたが、今度は睡眠時間が削られまた辛くなった。
自営業者が陥る「ラクをしたい」と「好きな事をしたい」の混同から来る失敗であろう。
しかしそういう葛藤もありのままに書いて、そこをどう乗り越えたかということも書いてある。
今の自分の仕事を別の角度から考えられる、面白い本だと思う。