私の愛した歌人 9 会津八一 | 閑話休題

 私の愛した歌人  9     会津八一

 

     会津f八一  『南京新唱』『南京余唱』『南京続唱』『観音三昧』

    かすがのにおしてるつきのほがらかに あきのゆうべとなりにけるかも            春日野にて

  たびびとのめにいたきまでみどりなる ついじのひまのなばたけのいろ            高畑にて

  たびびとにひらくみどうのしとみより めきらがたちにあさひさしたり              新薬師寺金堂にて

    みほとけのうつなまなこにいにしへの やまとくにはらかすみてあるらし            香薬師師を拝して

  ちかづきてあふぎみれどもみほとけの みそなわすともあらぬさびしさ    

  かきのみになひてくだるむらびとに いくたびあひしたきさかのみち              滝坂にて

  おほらかにもろてのゆびをひらかせて おほきほとけはあまたらしたり            東大寺にて

  びるばくしゃまゆねよせたるまなざしを まなこにみつつあきののをゆく            戒壇院・広目天

  おほてらのほとけのかぎりひともして よるのみゆきをまつぞゆゆしき            東大寺懐古

  ならざかのいしのほとけのおとがいに こさめながるるはるはきにけり            奈良坂にて

  しぐれのあめいたくなふりそこんどうの はしらのまそほかべにながれむ          海龍王寺にて

  ふじわらのおほききさきをうつしみに あひみるごときあかきくちびる             法華寺観音

  あきしののみてらをいでてかへるみち いこまがたけにひはおちにとす           秋篠寺にて

  おおてらのまろきはしらのつきかげを つちにふみつつものをこそおもへ          唐招提寺にて

  しぐれふるのずえのむらのこのまより みいでてうれしやくしじのたふ            薬師寺にて

  くさにねてあふげばのまのあをぞらに すずめかつとぶやくしじのたふ

  草踏めばくさにかくるるいしずえの くつのはくしゃにひびくかなしさ             山田寺にて

  やまでらのほふしがむすめひとりいて かきうるにはもいろずきにけり           浄瑠璃寺にて

 

  美術史家、歌人、書家。新潟県生まれ。早稲田大学で美術史の教鞭を取る。明治41年初めて奈良に来て以来、終生奈良の風物・仏像に傾倒した学者歌人。歌、書ともに格調かな表現の独特の歌風で、奈良を愛する人々に親しまれた。また書も素晴らしく、彼の自筆になる歌碑は大和路の各所に散在する。