森星の成功が壊してゆく姉妹関係

森泉は大きなコンプレックスなど持ったことがない。

母親がイタリア系アメリカ人であることで得た、優れた容姿と英語力と能天気さ。
早々にモデルになり、バラエティで座って笑っているだけで大金を稼げる環境。

学歴など無くても、バカタレントとして有名だからバカにされない。
そもそも森英恵の孫娘という生まれだけで誰にもバカにされない。
「セレブ気取りのファッション業界人のみなさん」が集まる場所では学歴よりも英語力が重要。
しかも日常会話とファッションと犬のことだけ話せればいい。
泉は英語も日本語も日常会話しか出来ないが、何の問題も無い。

ふざけた真似をしても誰も泉を怒れない。
森英恵の力、オスカーの力、森顕の日本刀。みんなビビって本気で怒れない。

コンプレックスなど感じることの無い幸せな日々を送ってきた泉は、これから人生で初めての感情を抱くことになる。
泉に嫉妬心を感じさせる唯一の人間が、目の前に現れることによって。


それが森星。


森星はコンプレックスだらけだ。特に姉に比べて顔が大きいことを気にしている。
しかし日本では泉より星の顔のほうが好まれている。
家柄や英語力は泉と同じ。スタイル、学歴、そして若さ。全ての面で泉を上回る。

泉は今は妹の成功を喜んでいるだろう。
だが、ターニングポイントが2つある。
一つは収入で抜かれた時。

問題児で演技力のない泉にはCMの仕事はほとんど来ない。
たまに来たレッグマジックのCMでも嘘臭い棒読みセリフ、さらに別の大きな問題も俺によって暴かれた。

だが星は違う。イメージが悪くなく、演技もそれなりに出来る。
もうすぐCMの仕事が次々と舞い込んでくるだろう。
モデル・CM・女優・バラエティ、多分野で活躍し、泉の収入もすぐに抜くだろう。

「お姉ちゃんがおごってあげる」「お姉ちゃんが買ってあげる」
それをやる意味が無くなった時、姉妹関係が少し変わる。

そしてもう一つのターニングポイント。
男の目が、自分ではなく、若い星に向いていることに気づいた時。

その時、泉の心は変わる。
姉妹関係が大きく変わる。

そして強大な森家は内部から崩れ始める。
それは森家との戦争に勝つために俺がやるべきことの一つ。
星を活躍させるためなら、俺は星のスキャンダルを得ても揉み消してやるかもしれない。

泉はこの文章を見ても3分後には忘れている。

だが、星は違う。