最初のメールから数日後、また、その女からメールが来た。
< 過日は、ご気分の悪くなりそうなメールを差し上げてしまい、お恥ずかしい限りです。私の言い捨てをきっかけに掲示板では様々な論議があるようですが、TAKA様のお姿を最近、掲示板でお見受けしません、お元気でいらっしゃいますか。こちらは、ご批判を受ける態勢も整いました。メールをいただければ幸いです。>
 今度は、小山玲子と本名が書いてあり、標準語になっていた。これが一番、今、目の前にいる女の雰囲気に近い。
 隆志は、このメールに初めて短い返事をした。
< 過去の発言をお読みいただくと分かるかと思いますが、私の「美学」として、ネット上の発言についてメールなどで論評することは原則として、しないことにしているのです。>
 格闘技はリングの上で。それが隆志の信条だった。同性同士がリング外でやりとりをすれば計略になりやすく、男と女がリング以外のところでやりとりをすれば、格闘技は寝技になりやすい。隆志はそう思っていた。
 それから毎日のようにメールが来たが、女が送ってくる短歌や歌詞に感想を書くほど、親切でも暇でもない。それに、女は返事が欲しいと書きながら、その内容は返事のしようのないもののようにも思えた。しばらくして、一度お目にかかりたい、というメールが届いた。
 返事をせずにいると、その女の知人だという会員の女性からメールが来た。
<moguraさんからTAKAさんへの思いを聞かされた時は、本当に驚きました。彼女はあんな口調ですが、小心?だから、傷心で、焦心です。一度、彼女と会っていただけませんか。>
 一度会えば、女の気が済むかもしれない。相手の気が済まなかったときは、どうなんだと、隆志は自分に尋ねなかった。相手がどんな女であるにせよ、女の妄想に巻き込まれない自信があった。隆志は女に電話番号をメールした。
 そして、いま、目の前にその女がいる。