「がんばらない」 鎌田實著 集英社文庫
2年ほど前に読んだ。読み終えた後、机の上には水分を含んだティッシュが山盛りになっていた。
著者は 諏訪中央病院 の元院長。現・保健医療福祉管理者。
地域医療やターミナル・ケア(終末医療)の名医である。
つぶれかけていた諏訪中央病院を建て直した医師の一人である。
チェルノブイリの救援活動にも行っておられる。
本書は小説ではなく、そういう医師のノンフィクションである。
1948年生まれの著者の来歴を悪意をもっていえば、学生運動の果てに都落ち、ということになるのだろう。
都落ちした先で、「ぼくら」はなにをしたか。
ココロザシをもって医療にあたった。医学ではなく医療。
「ぼくら」のココロザシは最初から白い巨頭に向ってはいず、地に足のついた医療にあったのだから、都落ちして本懐を遂げたというべきであろう。
そういう「ぼく」のココロザシと奮闘に、泣いてしまった。
この本には、<医は仁術>の理念と実践があるんです。(わっ、ツキナミ!)
事例がすごいだとか、南信州の自然を写した文章や人を描いた文章がとてもうまいだとか、そんなことは取るに足りないことのようにさえ思えます。
本書は号泣寸前になってしまう本文に、ところどころユーモアのある小見出しがついている。ちょっとだけ引用してみる。
板鋏みにあったオチンチン
あんぽんたんドクターたちの闘い
男のロマンと女の不満
看護婦さんと穴あき紙パンツ
★ ★ ★
この本を読んでしばらくしてから、鎌田さんにお目にかかったことがある。私は「文は人なり」を信じていて、ごく稀にそのためにエライ目にあうこともあるのだが、そのときの鎌田さんは本書の中の「ぼく」に限りなく近い人だった。
ターミナル・ケアで、死を目前にした人がすごす 「ホスピス」 という施設に、ちょっと関心がある。「ホスピス」で死を迎えるためには、いったいいくらくらいかかるのだろうと、私の関心はひどく下世話である。
「そういう医療には健康保険が効かないのですよね」
と尋ねたら、
「うちの病院は、すべて健康保険でやっています」
とのことだった。
癌になったら、諏訪中央病院でぜひよろしくお願いしたいのですがと、半ば以上本気で言ったら、地域での治療が一番ですよ、と言われた。そりゃあ、全国からこの病院に患者が押し寄せたら、身動きがとれなくなるよなぁと思いながら、もしそのときが来たら、諏訪周辺に引っ越そうかしらん、と、マジ思った。
諏訪中央病院に、実際に行ったことがない。
先日、北村薫原作・牧瀬里穂主演の 「ターン」 (原作も映画もいい)のテロップを見ていたら、撮影協力に「諏訪中央病院」と出た。ああ、こんな病院がイイ!と、また思った。
建物もその中で働く人たちも歳月とともに変化する。
建物が古くなり、働く人たちが変わっても、この病院の医療理念が、これから先も変わりませんように。
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