ボルトがない!の続きです。

 

先月、国土交通省も実は調査に乗り出しています。

建設現場の高力ボルト需給ひっ迫を受け緊急調査を実施 8割強で工期に影響

 

1.調査
    (1)調査対象:鋼材関係を取り扱う供給側及び需要側の558社
    (2)調査項目:『価格・需給動向』、『納期の状況』、『関連する工事の工期への影響』等
    (3)調査期間:平成30年10月25日~11月2日
    (4)調査方法:アンケート
    (5)有効回答:305社(回答率:約55%)
            うち、高力ボルトの取扱いありと回答したのは159社

 

結果が発表されています。

 

2.結果
    (1)需給動向:「ひっ迫」
       「緩和」「やや緩和」「均衡」「ややひっ迫」「ひっ迫」を1~5点として回答。全国平均4.76。
    (2)価格動向:「やや上昇」
       「下落」「やや下落」「横ばい」「やや上昇」「上昇」を1~5点として回答。全国平均4.28。
    (3)ひっ迫の状況:
       ・工事種類では建築が53% 、土木が34%
    (4)要因として聞かれた声:
       ・再開発を含めた建築等の需要が旺盛
       ・ボルトメーカーに対する材料供給が追いついていない 等
    (5)納期及び工期への影響:
       ・高力ボルト(全般)の納期は、通常時の約1.5か月程度から約6か月程度
        まで長期化している
       ・回答があった社の8割強で工期に影響があると回答

 

 

 

これまで官公庁は、新国立競技場とか豊洲市場とか、建築基準法改正等々で、

僕が、ヤバいんじゃない?大丈夫か!と言っても、

 

大概は、「大丈夫」、「問題ない」、「順調に推移している」、「完全に安全」、「余裕です」

「危険という証拠を見せてみろ!」、「森山、何を大げさに言ってるんだ!」と、

最初のうちは豪語してくるのが普通でしたよね。

 

それが、「ひっ迫」。

 

あまりに正直、あけすけ。

 

漢字では、逼迫と書きます。

逼はせまる、迫もせまる、せまるせまる、せまりくる!です。

 

なにが迫りくるのか…

ひっ迫の意味を調べますと、
1.行き詰まって余裕のなくなること。事態が差し迫ること。身動きできなくなる。
2.苦痛や危難が身に迫ること。せっぱつまる。困窮する。

 

と、国土交通省も認めています。

8割がヤバい、と公式発表。

 

ということは…、これまでの経験上で考えてみても、実際は公式発表以上の事態ではないか?と想像が働くわけです。

 

「ひっ迫」以上の表現ってあるんだろうか…と調べますと

 

火急の、危急の、緊急の、くらいしか残っていない。

 

つまりは、ボルト不足は緊急事態ということなわけです。

 

なぜ、ボルトがないのか?

すぐ作ればいいじゃないか?という話しになりますが、そう簡単にはいかない。

なぜなら、建設工事に使用される鉄骨構造のためのボルトは、ただの普通のボルトじゃないからなんです。

高力ボルト(こうりょくボルト)といいますが

 

一定の試験に合格した規定を満たした認定を取ったボルトじゃないといけない。

その規格と認定は次の二つ。

 

JIS B1186という規格品

もうひとつは国土交通大臣の認定品

F10Tというのが製品の規格を示し、NSというのはメーカー(日鉄住金ボルテン)のNSです。

 

こちらの写真でもボルトの頭に刻印してありますね。
F8T(亜鉛メッキタイプ)これがボルトの規格、JFEというのはメーカー(日本ファスナー工業)のJFE

 

ボルトの頭に刻印がしてあります。F10T

FというのはRriction(フリクション)=摩擦のFです。

10Tというのは、10tF/平方センチ=100kgF/平方ミリのTensile strength(引っ張り強さ)をもつという意味です。

8Tというのも同様に、8t/平方センチ=80kgF/平方ミリの強さです。

 

F10TがJIS規格、F8Tが大臣認定を示しており、どちらを使用してもいいのですが、

わざわざ少し強度の劣るF8Tがなぜ存在しているかというと、亜鉛メッキを施すためです。

錆止めということですね。

鉄骨をペンキで錆止めするのではなく、亜鉛という金属でコーティングして使用することがあります。

 

 

 

メッキしたい鉄骨を、亜鉛を溶かした熱いプールにドブンっと入れて表面に亜鉛の層をつくります。

なので、建築通を気取る場合には、溶融亜鉛メッキという正式名称でなく、「ドブ漬けメッキ」と呼ぶといいでしょう。

 

表面は銀色と灰色のフレークが入り混じった、非常にインダストリアルなファクトリーっぽい仕上がりになるので、

コンクリート打ち放しの建物や、ガルバリウム鋼板仕上げの建物の外階段なんかでは、建築家の定番みたいな仕様です。

 

 

ちょうど、チーズフォンデュとかチョコがけバナナみたいな手法です。

 

 

そのような、亜鉛メッキ鋼材をジョイントするときに、F8Tが活躍するのです。

 

 

で、ボルトの話しなんですが
六角頭ではなく頭が丸いほうに注目してください。

 

これは高力ボルトでも「トルシア型」と呼ばれるもので、トルクシアーという造語の略です。

高力ボルトは規格により締め付け強さも規定されていて、キチンと締め付ける=トルクコントロールが大事なのですが、

締め付けの確認をいちいち計測したり、職人さんの勘に頼るのではなく、

所定のトルクで締め付け(torque)ると、ボルトのシッポが勝手に破断(shear)して、締め付け確認できるタイプです。

S10Tのほうが最近は一般的に使われています。

 


 

それは、鉄骨の組み立ては高所作業になりますから、無理や危険な体勢になりがち。

そこでもシャーレンチという工具を使って、確実に締め付けができる「トルシア型高力ボルト」が建築の鉄骨工事では一般的なのです。


作業写真は川口工業さんHP コーア建設さんブログ より


なので、ボルトが足りない、というのはトルシア型高力ボルト、

現場通称「トルシア」つまりは、このS10Tタイプがまず足りなくなって、

その後に、F10TやF8Tまでなくなってきている!ということなんです。

 

ちなみに、このトルシア型高力ボルトの大臣認定取得メーカー(高力ボルト協会員)は以下です。

 

 

頭には、トルシア型高力ボルトを示すS10Tに加え、メーカーを表す刻印が打ってあります。

 

つづく