国立競技場の解体工事が決まらない理由 2 | 建築エコノミスト 森山のブログ

建築エコノミスト 森山のブログ

マンガ建築考の森山高至が「たてものと生活と社会と文化」を考えています。
twitter始めました。https://twitter.com/mori_arch_econo
連絡先は moriarchecono@gmail.com


テーマ:
既存躯体図の基礎部分にある杭について続きです。




この足元にあるフーチング(靴底)の下をよく見てみますと



この赤く塗った部分が杭です。

で、フーチングという靴底の裏から生えていきます。

建築専門家とか機械設計者でないと分からないことのですが、
この絵だけみたら杭が5000本以上も!あって大変っ!ていっても
スパイクみたいなもんだからすぐ抜けるんじゃね?と思われるでしょう。



違います。
上の断面図を見て直観的に感じるようなイメージじゃないんです。


杭の先っぽを見てください。
ふにゃ~とした記号になっていますよね。

これは「まだまだ続いていますけど、紙からはみ出すので、書くのは省略しました」という意味です。



どこまで続いているんでしょうか?
以前、ザハ案アーチの問題を検討したときに調べましたよね。

新国立競技場の基本設計が終わらない理由3



支持地盤といわれる固いところまではいってなきゃいけないんで
まあ、20m以上はいってるんじゃないでしょうか

20mというと7階建てのビルくらいです。

とすると、さきほどの基礎フーチングと杭のリアルイメージはこうです。

ええー!長が!

と思うでしょう、支持地盤まで20mといわれるような土地では、普通のビルでも大体こんな感じに、曲芸の竹馬に乗っているようなものなのです。

で、この長さのものが各フーチングの下に杭打ちされています。


国立競技場の片側スタンドの全体像ではこんな感じなんです。

本当は地下構造部分の方がデカイんです。

この杭を全部引きぬけるのか?という問題ですね。
しかも、支持地盤が20m以上深いところだってあったでしょうから、
実際には30~40m打ってあるかもしれません。


杭には大きく二種類あって、柔らかいところに杭でこれ以上沈まないように摩擦抵抗するものと、固いところに突き刺さって支えるものです。

国立競技場の場合の杭はおそらく支持杭というものです。

最近は杭の作り方もいろいろとあって、現場で穴を空けてからそこにコンクリートを流し込んで固めるもの、先端に鉄の羽根がついていてそれがグリグリ自分で潜り込んでいくもの等もあります。

国立競技場の場合はディーゼルハンマーによる打撃工法というものでしょう。


プロレスの技で「パイルドライバー」というものがありますが、この命名の元になっているのが、これです。
パイル=杭
ドライバー=打ち込みするもの

昭和52年の振動規制法により市街地では使われなくなりましたが、昭和40年男である僕が子供のころは町中でこれが「スコーン!スコーン!スコーン!」と稼働していました。

このディーゼル式パイルドライバーはですね、高度成長期の子供達にとってリアル重機の中でも最高にカッコイイもののひとつなんです。

こいつの凄いところは、2サイクルエンジンと同じ仕組みの爆発ハンマーが上空でモクモクと排気しながら空中の機関車のように、でっかい尖らせた鉛筆みたいなコンクリート既成杭をガンガン撃っていくところは凄く興奮しました。



大人になると忘れてしまうんですが、ちびっこはみんな知ってる日本車両製造株式会社さんのHPにパイルドライバーの詳しい記事がありますので、ぜひご覧ください。

「基礎のはじまり」日本車両HPより

「三点式パイルドライバー」日本車両HPより



で、このような杭が1万本近く打ってあるという国立競技場の現場ですが、杭の引き抜きは出来るんでしょうか?

実はこの「杭の引き抜き」というテーマは国立競技場に限らずこれからの日本の都市において老朽化した既存建築物の扱いと土地の流通において非常に重要なものになりつつあるのです。

それは、東京だけでなく、大阪、名古屋はじめ日本中の巨大都市のほとんどが埋立地の軟弱地盤上に位置しており、たいがいのビルは支持地盤まで杭が打ってあるものばかりだからなんです。

これらの建築解体工事において、この杭の処理が物凄いネックになってきているんです。

ところが、餅は餅屋ということわざどおり、この杭引き抜きのスペシャリストたちの技も存在します。

築後50年を経ての重機VS重機の闘いです。

「ディーゼル式パイルドライバー」VS

「オーガーケーシング工法」


これはですね、大地に穴を開ける「アースオーガー」という重機がいるのですが、そのオーガーが、杭の外側にすっぽり潜りこんで、杭周辺を掘り広げていき、最後に杭をスポっと抜くというものです。

広島県の安建工業株式会社さんのHPより
http://www.yasken.jp/hikinuki.html


こいつが、杭の周りをグイグイ掘り進んでいく


また、その名も「既存杭引抜研究会」にはいろんな工法が詳しく乗っています。
http://kuinuki.com/member.htm

このような方法で5000本から1万本の杭を引き抜くのでしょうか?
杭引き抜き工法は工事費の目安が1mあたり3万円とか言われており、30メートルの杭を抜くなら、1本あたり税込100万円くらいです。

1000本なら10億円、5000本なら50億円、1万本なら100億円ですね。

お金さへかければ、国立競技場の杭も全部抜くことができるんでしょうか?

それがですね、抜けばいい、ってもんでもなさそうなんです。

なぜかというと、杭抜いた後はどうなると思います?
穴が残りますよね。
その穴を何かで埋めていくんですけど、


基本、埋め戻した土だと付近の数万年の堆積を経た地盤よりもフカフカしてしまいますよね。

しかも、国立競技場の基礎と杭は剣山のようにビッシリ密集して打ってあるわけですから、



そのまま全部の杭を抜いた後の地盤はというと、考えるだに恐ろしいんですが、スポスポ穴が開いたハスの実のようになります。

支持地盤と思われる地下30メートル、7階建ビルくらいの深さまで、
地盤はグチャグチャです。

杭抜いた後のその地下30メートルまで続く国立競技場をかたどったドーナツ状の地盤をどうにかして固め直さないといけないんです。

つづく

建築エコノミスト森山(公共事業建築評論)さんをフォロー

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス