「進撃の巨人」の壁の考察について続けてみたいのですが、
世界の歴史上、多くの国家が地上に防御壁を築いているということでした。
地形的に平板な領土においては、さえぎるものや隠れる場所を人工的に作りださねばならなかったんですね。
また、基本地上を駆ける騎馬兵や歩兵からの攻撃には、矢の有効射程の問題はありますが、このような壁が有効に作用するであろうということです。

わが国においては、複雑な海岸線や深山幽谷ともいわれる樹木が繁茂する地形が、
守勢には優位であり、攻勢の進撃を阻む効果があったため、
このような壁体、長城形式の防御策をあまり必要としなかったと思われます。

しかし、日本にもそんな長城のように巨大な建造物があったのです。
それは、九州大宰府にある「水城(みずき)」です。

前長1.2キロメートル、基底部幅80メートル、最高高さ15メートル、とか聞くと
なんだか凄そうでしょう。

私は数年前仕事で太宰府に通ったころがありましたので、
いつも112号線や3号線、九州自動車道から、この水城を眺めていました。
ただ、見た目はそんな壁ってほどでもないんですが、これを人の手で作ったのか、
と感慨深いものがあります。
こんもりと木の茂った丘というか土手というか、しかしずっと先まで続いている。

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大宰府の防衛ラインとして1300年以上前に建造されたものです。
万葉集にも歌われているくらいなんです。
ますらをと思へる我れや水茎の水城の上に涙拭はむ 大伴旅人
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前述の「西安古城」とこの「水城」を、「ウォールマリア」と比較してみました。
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ざっとこんな感じです。
「西安古城」の方では、必要な地耐力が30トン/㎡なので、
岩盤でなく礫層や土丹層でもいけるかもしれません。

「水城」の方は15ト
ン/㎡ですから、固めの砂質層や粘土層、関東ロームでも大丈夫そうです。しかし、この「水城」の建造エリアは地盤の弱い部分もあり、当時のハイテク工法「敷粗朶(しきそだ)」で地盤改良がおこなわれていたことが発掘調査でわかっています。

「敷粗朶(しきそだ)」とは樹木の枝葉を束にして井桁状に組み、そこに樹木の枝葉を詰め込んでおこなう地盤改良工法です。松杭とともに海浜や軟弱地盤のエリアで効力を発揮する伝統的な工法であり、最新のコンクリート杭やセメントミルクによる地盤硬化工法よりも地盤との相性ではより有効なケースもあるくらいなんです。

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以上のように、防御のための壁づくりというのは世界各地で様々におこなわれてきたわけですが、これらは大体「土木工事」といわれるジャンルです。

「進撃の巨人」においても、エレンやミカサが巨人と戦う一方で、
本編に登場してないようですが、
壊されそうになった壁を徹夜の作業で修復したり、新規の補強工事を施したり、
平和時における維持管理といったことに従事する土木班が、
ウォール内部には相当数いることは間違いありません。

いや、あれだけ人口減少が進んでしまっているんですから、
むしろ国民はみんな土木技術を学び、ほとんどの時間、
土木作業に従事しているかもしれないくらいです。

「土木」というと地味で目立たない土建業のひとつと思われていますが、
「進撃の巨人」を見るまでもなく、歴史的に見ても実は防衛の最前線、
古代から現在までも人的な脅威、自然の猛威など、
外部からの脅威に対する国防産業なわけです。


最近はこの土木産業が国防産業であることの意識が、
薄れてしまっているんじゃないですかねえ。
そういった意味でも「進撃の巨人」を読んで納得していただきたいと思います。

 
「進撃の巨人」に登場する壁を構造的に成り立たせるには、
相当な土木建築水準の技術が必要になり、強力な地耐力をもった岩盤地域であるはずだ、ということが推察されました。
物語の背景も北ヨーロッパを彷彿とさせる風景や神話感であることも、

さらに、あの壁を安定的に構築するならばやはりヨーロッパ大陸であろうという、
証拠があります。
下図は、欧米と日本の地質の比較なのですが、日本は岩盤といっても比較的新しい時代に形成された火成岩が主に分布しており、しかもモザイク状に岩が入り混じった状態です。

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ヨーロッパでは地層が安定しているだけでなく、氷河の影響によりさらに壁の建造に向いた地盤を形成しています。
厚く堆積した氷河は、地面を削り取りながら移動するために、氷河が融けたあとに
新しい岩盤の層が表面に露出してくることになります。
それが北部ヨーロッパの大地を構成している要素です。

以上、建造物の規模や地耐力の問題から、岩盤の存在するエリアであることなど
考察できたわけですが、

「進撃の巨人」の舞台となる街の地面が岩盤であることをにおわせる記述が、
全体に存在します。

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この町の中には木が一本も、
草木も生えていない、家の前にプランターもない、
ということなんです。

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つまり、街の地面には表土が存在しないか、
あっても数センチで、すぐに岩(ガン)が出る。

それは、諌山先生の都合というか、連載上の作業工程も
多分にあるかもしれないんですが、

まっ平らでディテールのない、そんな土地柄です。

物語の
 
何か虚無的で非現実的な恐怖をかもし出すことに、
背景の圧倒的なスカスカ感が、
重要な要素になっていることはいうまでもないでしょう。

「進撃の巨人」における建築的考察 1
「進撃の巨人」における建築的考察 2
「進撃の巨人」における建築的考察 3
「進撃の巨人」における建築的考察 4
「進撃の巨人」における建築的考察 5