台湾進出を検討しているクライアントよりよく聞かれたのは、現地法人設立支店設立のどちらを選んだほうがよいかという質問です。

 

投資の前段階では、現地顧客との契約締結、見積り、価格交渉、入札、調達等の目的で、台湾で拠点を置き、現地で少人数の従業員を雇う必要があれば、駐在員事務所(中国語:外國公司辦事處)を設立するというやり方がありますが、駐在員事務所は、正式に「運営活動」(中国語:經營業務)を行うことができません(ここにいう「運営活動」とは、外国会社が経常的に繰り返して従事するビジネス活動を指します(経済部2003年10月29日付経商字第09202221350号通達))。したがって、正式に台湾でビジネス活動を行いたいなら、現地法人の設立、もしくは支店設立のどちらかを選ぶ必要があります。

 

もっと詳しく言えば、外国会社が台湾に現地法人(台湾会社)を設立する場合、当該台湾会社の名義で運営することに、特に問題がありませんが、もし外国会社の名義で運営したいなら、当該外国会社の台湾支店を設置する必要があります。支店の設立なく、外国会社の名義で台湾において「運営活動」を行うと、行為者(責任者もしくはスタッフ)が1年以下の懲役、拘留に処され、もしくはニュー台湾ドル15万元以下の罰金に科され、又は併科されるリスクがあります。それに加え、当該行為者が自ら民事責任を負わなければならず、行為者が2人以上いる場合、連帯して民事責任を負います。かつ主務官庁は当該外国会社の名称を使用することを行為者に禁止することができます。

 

実務上、日本企業が台湾に拠点を置いていないにもかかわらず、オンライン(繁体字中国語のサイト、台湾人向けのWeb広告など)で台湾人の顧客をターゲットとして宣伝して受注し、海外から製品またはサービスを提供すること (越境EC)が少なくないでしょう。裁判例を確認したところ、実際に上記の刑事罰を問われて処罰された外国会社の責任者も極めてマレです。

 

しかし、筆者の経験では、業法違反と認定されてしまい、台湾当局が台北駐日経済文化代表処(大使館に類似するもの)を通じて、当該日本企業に事情聴取を要請したケースが確かにあります。刑事責任なので、下手すると、外国会社の責任者が知らないうちに台湾で刑事責任を問われ、さらに指名手配が行われ、結局、台湾入国時もしくは台湾で乗り継ぎされる時に逮捕されてしまうことになります

 

このリスクを回避するため、台湾進出を本格に実施する前に、現地法人を設立するか、もしくは支店を設立するか、のいずれかを検討する必要があると考えられます。

 

この問題は、業法規制、今後の運営規模、ビジネスモデル、現地での出資パートナーの有無(ジョイントベンチャーの要否)、税務面などの観点から総合的に検討しなければなりませんが、今日は両方のメリットを軽く紹介しましょう。

 

 

 

現地法人

支店

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法人格

独立の法人格あり

独立の法人格を有せず、あくまで外国会社の法人格に従属する存在

現地法人と日本企業とは別の法人であるため、現地法人に生じた法的責任や債務につき、その親会社の日本企業は直接責任と債務を負いません

一方、支店は日本企業と同じ法人であり、台湾法によれば、日本企業は支店で発生した全て法的責任や債務を負わなければなりません。

税務

営業税:5%

営利事業所得税:20%

株主への配当金の所得税源泉徴収:21%

未配当利益課税:5%

営業税:5%

営利事業所得税:20%

株主への配当金の所得税源泉徴収:不適用

未配当利益課税:不適用

営業税(日本の消費税に相当するもの)と営利事業所得税(日本の法人税に相当するもの)につき、現地法人と支店は同じです。

ただ、親会社の日本企業へ利益を配当する際に、現地法人は親会社の代わりに21%の所得税を源泉徴収する必要があり、未配当でも5%の未配当利益税が課税されます

一方、支店はこれらの配当に関する課税が適用されないので、税務上比較的有利であると考えられます

人員

株式会社の場合、少なくとも1名の董事(兼董事長)を設置することが必要。董事長は株式会社の代表人とする。

有限会社(中国語:有限公司)の場合では、董事を設置する必要もある。

中華民国国内での責任者及び支店経理人(支店長)を指名することが必要(同一人を指名することが可能。中華民国国内での責任者及び支店経理人は本社の代理人とする。

①   必要人員の人数について、現地法人や支店のどちらも同じです。

②   左記の人員は、いずれも外国籍の方が担当することが可能です。

③   現地法人で董事会を設置した場合、定期開催が必要ですが、外国での開催またはテレビ会議による開催が可能です。

機関決定

董事会(最少3名の董事)及び監察人を設置することが原則(ただ、定款により董事1~2名のみ、または監察人不設置になることも可能。)この場合、通常の業務は董事会で決議する。

基本的には指名した支店経理人(支店長)が本社の指示に従うことになる。機関決定も本社の董事会により決められる。

業務執行の観点からすれば、基本的にはあまり差がないと言えます。

株主総会

少なくとも年に1回の定時株主総会を開催する必要があるが、法人株主1名のみの会社であれば、株主総会の権限は董事会が代行することになる。

株主総会がないため、定期開催も不要。

法人株主1名のみの現地法人であれば、支店との差別は基本的にないと言えます。しかし、株主が2名以上の場合、株主総会の定時開催に留意する必要があります。

ちなみに、定款に明記しておけば、バーチャル株主総会は台湾法に認められています。

台湾当局への補助申請

台湾会社への補助、支援金等の申請は可能。

外国会社であるため、台湾会社限定の補助及び支援金等の申請は原則不可。

例えば、コロナ対策としての企業支援金について、外国会社の支店が申請対象外とされています。

不動産取得

現地法人の不動産取得手続が一般の台湾会社と同等。

台湾において不動産を取得する場合、外国会社は台湾政府の認可を得てから本社の名義で行わなければならない。また、外国会社による不動産の取得に当たって、台湾会社より厳しい条件、制限等(例えば、地方政府の許可、取得できる土地の種類制限等)が存する。

不動産を取得する予定があれば、現地法人を設立したほうがよいと思われます。

 

 

結語 

 

 

結論として、現地法人の方に独立の法人格があり、日本企業(親会社)へのリスクをある程度遮断することができますが、日本企業への配当金に関する課税に着目して比較すれば、支店の方が若干優れているといえます。また、運営に際して土地や建物等の不動産を取得する必要があれば、現地法人の取得が比較的容易と考えられます。その他について、決定的に優劣をつけることが難しいと考えられます。

 

ただ、上記の分析はあくまで一般論に過ぎず、実務では、入札の資格は台湾会社に限定するとかの理由で、現地法人の設立に至ったケースもあります。また、現地法人の設立に際しては、株式会社、閉鎖的株式会社や有限会社を選択する必要もあります。どの態様で台湾進出を行うかは、ケースバイケースで、業法規制、今後の運営規模、ビジネスモデル、現地での出資パートナーの有無(ジョイントベンチャーの要否)、税務面などの観点から総合的に検討しましょう。