たとえばスペイン語では
 
牛=vaca    牛肉=vaca
豚=cerdo   豚肉=cerdo
鶏=pollo   鶏肉=pollo
 
といった具合に、動物名とそれから由来する食肉名は同じ。差別化する必要性がある場合、最初に「~の肉」に匹敵する「carne de」を付けるくらいです。
 
しかし、ご存知のように英語は違います。
 
牛=cow     牛肉=beef
豚=pig     豚肉=pork
鶏=chicken   鶏肉=chicken
ただし鶏が属する
家畜化された鳥=fowl  家畜化された鳥の肉=poultry
 
ご覧いただけるように「動物」と「肉」の名前が全く異なります。
これはなぜでしょう?英語を無駄に難しくするため?いえ、実はこの現象にはイギリス史で最も劇的な出来事が深く関わっているのです。
 
「動物」の名称と似ても似つかない英語の「肉」の名称。フランス語と照らし合わせてみましょう。
 
[英語]
牛肉=beef
豚肉=pork
家畜化された鳥の肉=poultry
 
[フランス語]
牛肉=boeuf
豚肉=porc
鶏肉=poulet
 
なにげに似てますよね?それもそのはず、語源が同じなのです!
 
Cow, Pig, Fowl は古くから伝わる言葉で、5世紀から11世紀初めまでイギリスを支配していたサクソン人の使っていた言語から由来します。今の北欧言語に似た言語でした。大事件は1066年におきました。その年、フランス北部のノルマン人が攻めてきて、サクソンの王、ハロルド2世の首を取り、イギリスを征服したのでした。
 
 
王座はノルマン人、ウイリアム1世の手に渡り、要職についていたサクソン人は皆殺されるか失脚させられるかの厳しい状況に置かれました。当時のフランス語を話していたノルマン人は英語に多大なる「フランス語的」影響を及ぼしました。Beef, Pork, Poultry 等が英語に組み込まれたのがほんの一例です。
 
動物名はサクソン語。食肉名はノルマン達のフランス語。今日まで、英語の中に異なるルーツを持つ「動物名」と「食肉名」が平行して存在するのは、支配者ノルマン人が「肉を食べる側」、すなわち領主となり、その地位を追われたサクソン人がそれら領主達のために「動物の世話をする側」へと転落したという、激動の過去のなごりなのです。
 
英語のメンドクサさは、その一筋縄では行かない歴史から来ているのです。