先日、大田区の安久工機という町工場へ取材へ行ったときのこと。
こちらは従業員7名という小さな工場ながら、最先端の人工心臓の研究開発にかけては、国内有数の技術力をもつ会社です。

 昨年四月、同社に室蘭工業大学大学院で機械システム工学を学んだ方が入社しました。彼は、小さいころからものづくりが大好きで、普通高校より高専を選び、「将来は小さくても最先端技術を持つ工場で働きたい」と最初から決めていたそうです。

 就職活動は町工場が集積する大田区と東大阪市に絞って、インターネットで情報収集を始め、同社に辿りついたそうです。
 工場を見学し「ここなら、自分のやりたいことができるかもしれない」と決断したとか。

 大学院を出て大田区の小さな町工場に入るーー。

 稀有な例として、いくつかの新聞や雑誌に紹介されたこともあります。
 しかしこういった優秀な人材を育てていくためには中小企業の力だけでは限界があります。
 
 ベンチャー支援や中高齢者の雇用創出などで、補助金がつくことがありますが、町工場にとっては後継者の教育・訓練にこそ公的なサポートが必要です。

 一人前の職人になるまでには最低十年。
 設計内容や生産工程を頭に描くことができ、単価や納期を見積もる計算能力がつき、ものに向き合って仕上げていく「勘」が働くにはそのくらいの期間はゆうに必要とされます。

 その十年、大切に人材を育成していくのは、中小企業にとっては大変な負荷です。
「これこそ、一つの中小企業ではできないこと。技術が空洞化しないためにも国や自治体単位で、優秀な後継者養成のために何がしかの力を貸して欲しい」と同社の部長が訴えていたのが印象的でした。

 そして部長は最後にこう締めくくりました。「ものづくりは日本の産業の基幹となるコンテンツ。その財産を守るためにも」。