現在、欧州各国では、財政支出拡大の機運が高まっています。
しかし、実際に財政支出拡大路線を実行している国はありません。
かつてフランス大統領であったオランド元大統領も、財政支出拡大を唱えて大統領選を勝ち抜きましたが、実際に行ったことと言えば構造改革、規制緩和、法人税減税等の企業の優遇政策で、結果フランス国民から「嘘つき」呼ばわりされ人気を終えました。
何故かというと、EU加盟国は、財政支出拡大をしたくても、制度的にできない(しづらい)ためです1)。
EUの加盟国は、かつて加盟国であったイギリスを除き、共通通貨のユーロ€を通貨として定めています。
形式上では、ECB(欧州中央銀行,ドイツ・フランクフルト)に金融主権を移乗した形になっています。
つまり、フランス、イタリアを含むEU加盟国は、原則的に通貨発行権を事実上剥奪された状態なのです。
基本的に、国家財政の財源は、税収と国債です。
国債は言うまでもなく借金です。
借金は、いつか返さなければなりませんが、日本やアメリカのように、自国通貨を持ち、通貨発行権を持つ国は、内国債、つまり自国通貨建ての国債であれば、理論上国債を無限に発行し、無限に国債を償還(借金返済)することが可能です。
または、償還期限が来ても、借り換え(ロールオーバー)という手段も取ることができます。
ロールオーバーとは、既発の国債を新規の国債に乗り換えることで、返済は必要ですが、直ぐに再び新規国債を購入してもらうことで、事実上返済せずに済ませることができます(利払いは必要ですが)2)。
つまり、日本やアメリカのように、自国通貨建ての国債の場合は、償還(借金返済)を気にする必要が全くないのです。
では、イタリアのようなEU加盟国の場合はどうでしょう。
通貨発行権がECB(欧州中央銀行)に委譲(剥奪)されているため、通貨発行ができません。
必然的に、EU加盟国が発行する国債は外国債(外国通貨建ての国債)と同じ扱いになってしまいます。
日本の場合は、税収に加えて、通貨を発行し(日銀に買い取らせ)て国債償還(借金返済)ができますが、EU加盟国はそれができないのです。
つまり、EU加盟国は、税収のみを財源として、国債を償還、つまり借金を返済する必要があるのです。
国債の購入者、つまりお金を貸しているのは、もちろん銀行や投資家です。
共通通貨であるため、国内だけでなく、国外の銀行・投資家も数多くいます。
フランスやドイツのように、経済規模が大きく税収も多い国であれば、ロールオーバーにも応じてもらえるでしょうが、ギリシャやポルトガルのような経済規模の小さい、税収も少ない国ではそれも難しい。
経済規模が大きく、経済も安定していれば、税収も安定して入って来る、つまり「安定して儲かっている」わけですから、いつでも返せと言えば返してもらえるということ安心感から、ロールオーバーにも気安く応じてもらえます。
要するに、「信用がある」ということです。
何しろ、投資家の世界は生き馬の目を抜くような弱肉強食の世界です。
冗談でも何でもなく、借りた金は死んでも返せという世界ですから、返せるかどうかも解らない相手に金は貸さないし、もし万が一貸してしまっていたら、相手が返せるときに無理にでもむしり取ろうとするからです。
また、EU加盟国は、通貨発行権を事実上剥奪されている上、マーストリヒト条約によって財政赤字を対GDP比3%に収めなければならないと定められている3)ため、財政政策に極めて強い制約が課せられています。
このことは、政府の役割を縮小させる圧力となります。
なぜなら、その必要性に関わらず、国家の運営、すなわち行政サービスである警察や消防、水道事業などの運営に必要な予算が削られてしまうことで、必要な人件費等の費用を賄うことができず、規模を縮小せざるを得なくなるからです。
規模の縮小、すなわちサービスの質を低下させ、範囲が狭められてしまうということです。
しかし、予算がないからと言って、国家を運営するに必要な規模のサービス提供は必要です。
政府が、予算の都合で担えなくなった行政サービスは、他の何かが担わなければ、国民の生活が立ち行かなくなってしまいます。
結果、そのサービス(仕事)を民間企業に委譲(もしくは売却)し、行政に代わって民間企業がサービスを提供することになります。
もちろん、有料で。
利潤を省みずサービスを提供する政府と違い、民間企業は利潤追求が目的ですので、当然それなりの値段が要求されます。
国民の生活の基礎をなすインフラに、市場原理が持ち込まれることになりますから、当然価格は跳ね上がります。
一見価格が上がって見えなくても、不足分は国民の税金からピンハネ、すなわち搾取されます。
そのピンハネ(搾取)された税金はどこへ行くかというと、一部は企業の労働者へ、そして大半はその企業に投資している投資家への配当金になる、というワケです。
つまり、EUという体制は、加盟国政府に対して政府の仕事を民間企業に売却させ、民間企業=投資家への配当金を増やす仕組みとも言えるわけです。
無論、その国の政府の仕事を受けるのは同じ国の企業とは限りません。外国企業、あるいは外国資本がバックについた企業も受けることができます。
つまり、その国の国民の所得が、外国の投資家、すなわちグローバリストへと流出していくことになるわけです。
要するに、EUというグローバリズムに基づく体制は、国民の所得を搾取するシステムなのです。
上記記事では、イタリアで
「mini-BOT」と呼ばれるこの短期政府債
が発行されるというニュースが紹介されています。
モノやサービスの購入から納税まで、決済に広く使えるようにする。新たな国の借用証を代用通貨として流通
させるということを最終目的としたもので、事実上の政府紙幣としての運用を見込んだもののようです。
この短期国債、事実上の政府紙幣発行策が、EU、すなわちグローバリズムの軛を断つ手段足りうるのか。
注目したいところです。
ところが、
グローバリズムは民主主義よりも尊いのか? 新世紀のビッグブラザー 三橋貴明氏
3月の総選挙で(政党としては)五つ星運動と同盟(旧北部同盟)という、反グローバリズム政党が勝利し、両党の連立が模索されていたイタリアですが、両党が首相として推した法学者のコンテ氏を、マッタレッラ大統領が拒否。(イタリアでは、大統領は首相承認権を持ちます)
理由は、コンテ氏が推薦した財務大臣候補のパオロ・サボナ氏が、EU懐疑派で、過去にユーロ圏からの離脱を表明していたためとのことです。
つまりは、
「反EUの政権樹立は許さん」
というわけで、五つ星運動と同盟は猛反発しています。
親EUで緊縮派のマッタレライタリア大統領が、首相承認を拒否。
同盟のサルビーニ書記長は、フェイスブックで、マッタレッタ大統領がイタリア国民の意思よりもEUを尊重した。民主主義にとって問題だ。
と、猛烈な批判を展開しています。
まさに、三橋氏が指摘する通り、民主主義vsグローバリズムの様相を呈してきています。
反EUの人物に対する反発、というところが承認拒否の動機なのでしょうが、EUというシステムの本質からすれば、親EUすなわち国民搾取を是認するということであり、イタリアのこの政治的対立は、グローバリズムとナショナリズムに基づく民主主義との争いがついに表面化してきたという事実を示しています。
世界は今、グローバリストという国民を搾取して利益を上げようとする一部の人間と、庶民との争いの渦中にあるのです。
<参考リンク>
1)月刊三橋シングルコレクション 「罠に落ちた大国フランスの選択〜今、日本が学ぶべき教訓とは」
3)フランスを縛る二つの鎖 新世紀のビッグブラザー 三橋貴明氏
<その他参考リンク>