里山で味わう変態蕎麦コース 蕎麦美庵 物味遊山 (京都・京北) | 蕎ばログ

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蕎麦屋が蕎麦屋を食べ歩く。一般人とは異なる同業者としての視点でシビアに鋭くタブーに突っ込みます。
技術や味云々よりも料理や蕎麦に対する信念、哲学、お客様への配慮等そういった方面から観察したいと思います。


2021・4月訪問

緊急宣言とかで町の旗艦施設である道の駅がずっと休業してるため

うちにも一見のお客さんがかなり流れてくるようになってしまったのですが。

うちにまで辿り着いてから

 

蕎麦の単品がない

 

コースしかないので時間がかかる

 

と知って帰られる方も結構おられます。

お客さんにとってもうちにとっても無駄な時間の浪費になるので

良い機会だしうちがどんな料理出してるのか?どんなことを伝えたいのか?

を先に知っておいてもらった方がいいのではと思い

客観的に書いてみることにしました。

電話や来店する前の参考にしてもらえれば。

 


 

京都駅からだとバスで1時間半。
現実的に車でしか行けないような不利なロケーションですが
ハードルが高ければ高いほど期待も高まるのが世の常。

喫茶店を改装したそうで外観はまるで情緒のない粗雑な造りですが。
中に入ると。


 

靴を脱いであがる板敷の上には底上げした囲炉裏テーブルと
奥には座敷と薪ストーブが鎮座。
外観とはミスマッチな山小屋的雰囲気が旅情を掻き立てますね。
席数はゆとりを取っておられるので12名くらいが定員でしょうか。

ざっとメニューを確認して。


 

と思ったら昼はこちらのコースだけのようです。


 

蕎麦のないおかずだけのコースもあります。


 

アルコールも充実してますがロケーションを考慮すると
これだけ揃えて回転する?
とこちらが心配になってしまいます。


 

蕎麦の単品がない理由がこちら。


 

全て英語メニューも併記されてます。

 


 

コロナ前は外国人観光客も多かったのでしょう。


 

今回は前もって予約してたので特別にCコースで。
まず前菜5種。


 

手前左から時計回りに。
島辣韭甘酢和え、法蓮草とセロリとデーツのナムル、春キャベツと分葱と甘夏のフレンチ風ぬた和え、

筍と葉玉ねぎの魚醤煮、おからと蕨のカレー煮込み。

とのっけからかなりマニアックな内容です。


店主さんに聞いたところ前菜は鰹出汁ではなくほぼ自家製の鶏がらをベースにして
砂糖は使用せず甘味が欲しいときはフルーツを利用するのだとか。
どれも下ごしらえから丁寧に調理されてるので
もうこれだけでハマってしまいそうですね。
次にサラダ。


 

地卵の温泉卵とカマンベールのサラダ。
カマンベールは軽く焙ってあり下地には醤油とオリーブ油ベースのドレッシング。
上からはフレンチドレッシングとタルタルソースという三層の味付け。
もちろん全て自家製なのだとか。
 

野菜はほぼ近くの契約農家さんのところで直接収穫されてるそうで
とにかく鮮度抜群。
さっきまで土に生えてたみずみずしさが伝わってきます。
そして本日の一品。


 

地卵のオムレツ林檎トマトソース。
ふわふわ卵に鰹系の出汁のきいたトマトソース。
ほのかな林檎の酸味と甘味が卵によく合ってます。
そして相方の一品。


 

おこぜの唐揚げ韓国風。
関西ではちり鍋で扱う高級食材ですが
骨まで食べられる唐揚げも美味。
醤油と酢ベースの甘辛タレとの相性も抜群です。
そしてメインディッシュ。


 

京地どりのソテークレソンソース。
美山から直送してもらう丸鶏を一羽丸ごと解体されてるそうで
その骨やがらが前菜のスープに生かされるのですね。
 

名古屋コーチンと軍鶏と黄斑ロックの交配種だそうで
160日ほど飼育された若鶏だけあって地鶏特有のゴムゴム感もなく。
適度な歯ごたえとジューシーな旨味が素晴らしい。
こちらも鰹系の出汁が効いたクレソンのジェノベーゼソースがマッチしてますね。
そして相方のメイン。


 

大羽鰯の塩麹フライ。
店主さんはもともと発酵食品から料理の世界に入られたそうで
こちらも鰯のたんぱく質を麹菌の力でアミノ酸に変換させる。
という科学的な理論がしっかり確立された料理です。
確かに美味しいですね。
そしていよいよ真打のお蕎麦。


 

本日は福井県南越前の今庄在来。
自家製粉の挽きぐるみの十割。
30メッシュで三番粉まで取られてるとのことでさすがに繋がりに不備はありますが
甘皮部分まで挽きこんであるのでかなり風味が際立ってます。
加水率が70%近くと多加水蕎麦らしいので香りよりも食感や味重視なのかと。
蕎麦に喉越しや歯ごたえを求める方は多少面食らうかもしれませんが
この感触と風味は唯一無二ですね。


 

蕎麦湯はポタージュ系。
南部鉄器で出てきました。
そして最後にデザート。


 

蓬の豆乳アイスと林檎のパウンドケーキ。
これだけよもぎよもぎしたアイスも珍しい。
もちろんこれも自家製。

蕎麦はもちろんのこと前菜からデザートにいたるまで
一切手抜きなしの丁寧な仕事が伝わってくる素敵な料理でした。
これで税込みで¥2420だというのだからもう驚きを通り越して
変態の領域に入ってるといっても過言ではないでしょう。

これだけ掘り下げた料理に向き合ってるのにも関わらず
押しつけがましく主張されてないのも好印象です。
何もない田舎町ですがこの店だけのためにわざわざ来訪する価値は十二分にあると思います。
唯一のネックはとにかく時間がかかることなので
短時間でパパっと済ませたい。
という方にはお勧めできません。
時間にゆとりをもって唯一無二の蕎麦コースを楽しみましょう。


 

蕎麦美庵物味遊山
京都市右京区京北周山町東丁田13-3