≪2024年6月11日読了≫

この作家は、若くして亡くなったようで、著作に出会い、大変気に入ったものの、その時にはすでに亡くなっていて、残念ながら新作を期待することができなかった。『香菜里屋シリーズ』が、安楽椅子探偵ものの定番であるバーを舞台にしていて、まさに王道を行くシリーズで、これが最初の出会い。その後。『親不孝ラプソディシリーズ』や、単発ものの『メインディッシュ』、『顔のない男』を読んだ。その他にも読んでいるはずだが、記憶がああいまいだ。自分の中では、かなりいい印象をもっている作家だ。

 

ふとこの作家の事を思い出し、他にもたくさんの読みたいリストがあるものの、「順番とばし」でこの作品を手に取った。作品についての事前情報は一切なし。この作家得意の連作短編の形態だ。冒頭エピローグで、書店員が、全国的に販売が自主規制されている「フォーチュンブック」なる本を5人の人物に販売する場面から始まる。とんでもなく当たると評判の占いの本で、個人情報を基に占うのだが、悪い結果のみが占えるという悪書。結果を気にして自殺者が相次いだことから、販売自主規制となった。

次からは、毎短編で、この本を買った人物のその後が描かれる。悪い内容の占い本なので、その後の人生でも、やはりその占い内容が影をさすような人生となる。いずれも犯罪がからみ、占い通りに不幸になっていく。または、その本を信頼するがあまり、本に振り回されるような人生となっている人もいる。そうやって本の購入者のその後を追うように描かれる短編で、幾人かは繋がりはじめ、短編ごとの関係もおぼろげながら見えている。

個々の短編は、ミステリーではあるものの、結論を出さないで話を終えるような、尻切れとんぼのような結末になっている者が多い。ミステリーの解答を示唆するにとどまっている感じ。これが何とも落ち着かない読後感なのだが、最終章で、すべてをまとめあげる解答が待っている。帝銀事件、横須賀線爆破事件、グリコ森永事件、三億円事件と、昭和の犯罪史の重大事件を縦串で通すような、痛快な物語だ。

 

解説にあったが、これは、もとは長編小説で描かれる予定だったらしい。それが小説誌に掲載ということになり、連作短編の形をとったと。この内容ならば、長編で読みたかったと思う。各編の終わり方がなんとも不自然に映るからだ。最後にきれにまとめ上げているが、連作短編という体で読むと少々無理がある。

本書は、占い本の魔力に人生を狂わされた人たちを描くものだが、決してオカルトに流されず、ミステリーとしての軸を、うまく隠しながらその魅力を最大限発揮させている。気づかぬうちに、昭和の重大事件がキーワードとして読者に刷り込まれており、それをうまく引き出してのラストにも、その工夫に感心した。このような意欲的な新作を期待できないのはつらいが、まだ未読の作品も多いので、じっくり楽しみたい。

 

★★★★★★★☆☆☆