中国の戦国時代末期、秦の大王嬴政(えいせい)は、韓の公子韓非を秦に招聘することにしました。特使介億は、騰大将軍、李信将軍等を護衛として韓の王都新鄭(しんてい)に乗り込み、首尾よく韓非を咸陽の嬴政の下に連れ帰りました。

何とあの、韓非子、です。
『キングダム』は、何より戦場(!)を舞台とした出世物語です。韓非という人物になじむような話とは思えません。
どうするんですか、これ? と思っているうちに、話は、あれよ、あれよ、と進み、韓非は死んでしまいます。

韓非が毒に斃れた後、李斯が独り酒を飲んでいるところに、妻が現れます。
ともに酒を飲みながら、李斯が言うのです。
<李斯( 俺は )
   ( 驚いたことに友達がいたみたいだ )
     ( — )
   ( そして その友を昨日失った )
     ( — )
 妻 ( 何をいまさら 旦那様と”非(ひい)様”はお友達と皆思っていましたよ )
    李斯( ! )
 李斯( …… そうか… ) >(171-172頁)

李斯の思い出の中によみがえる韓非の像には独特な魅力がありました。しかし、過去と現在を通して、韓非と相対する李斯の姿は、それ以上に、これまでにないほど魅力的なものです。その姿は、李斯に対する秦王や昌文君からの評価まで変えさせるほどのものでした。

いつの間にか、韓非子が、情報戦の犠牲者、ということになってしまったのには驚かされました。とはいえ、作中で、李牧が、これまでにも、情報を効果的に操作していることはほのめかされていました。趙の楽彰(がくしょう)将軍も言うように、これからの戦いは「”情報”が最大の武器」となることは、間違いないでしょう。次の戦いは「情報戦」となるということです。

羌カイ(きょうかい)と妹分の礼(れい)を連れて、信が故郷城戸村を訪れ古参隊員尾平の結婚式に出席する場面があります。そこで起こる出来事も含めて、まさに仕切り直しだったと言えます。
新しい戦い前夜ですが、この巻で張られた、幾つもの伏線がどのように回収されるか、とてもいいことばかりとは思えませんが、次巻が楽しみです。

*原 泰久 著『キングダム 70 』
 はら やすひさ
 ヤングジャンプ コミックス 株式会社 集英社 2023/11/22