『天国大魔境 1 』 『天国大魔境 2 』 『天国大魔境 3 』 『天国大魔境 4 』

 

キルコとマルは、キル光線の銃のグリップにある鳥のマークを探し歩いて、高原学園の入ったビルにたどりついた、が成果はなかった。そこで女性至上主義の組織のある「壁の町」を脱走した青年「種豚11号」と出会う。

高原学園の施設と「壁の町」は、ほぼ同じところにあり、まずキルコたちは、青年とともに「壁の町」に向かった。「壁の町」は、”人食い”に襲われ、瓦礫の山と化していたが、青年の昔の仲間と合流できた。紆余曲折の末、キルコとマルは、青年の車をもらって施設に向かったが…。

”施設”では、園長の画策により、青島副園長が誕生し、15人の5期生が入園する。病気の発症のメカニズムは解明されないが、トキオの、子供達同士の子が生まれる。

園長は、側近の猿渡(さわたり)に野望を語る。
<(ミーナさんが産んだのではない  子供達同士の子⁉)
 (決定的に予定外!)
 (決定的に別物‼)
 (トキオ君の子供の……  そこに賭けます やってくれますね!?)
     猿渡( ――― )
 (私(わたくし)はこの完全に壊れた世の中に 天国が芽吹くのを見届けねばなら

  ないのです)
 (人間から寿命という足かせを外さなければ  それは叶わないのです)
 (高原学園がそれをやります)>(138-139頁)
園長は、まず青島に園長の脳を移植し、トキオの子の成長後、その子に二度目の脳移植を行うと言う。
「私はこの完全に壊れた世の中に 天国が芽吹くのを見届けねばならない」からだというが、「天国」というものの具体性が皆無で、(少なくとも現時点では)理解不能である。ただ、目指すものがある、ということだけは確かなようだ。そこには、ミーナさんが産んだ子供達であり、「あらゆる免疫を備えて作られた体」を持つ子供達が深く関係するということもたしかなことだろう。

キルコとマルが車の屋根に乗って歯磨きをしており、車の持ち主の青年が苛立っている場面がある。その場面は、後日、マルが車の屋根に乗って、新たな持ち主のキルコを苛立たせるというほぼ同じ形で再現される。様々なところで、様々な形で繰り返されてきた日常の一齣である。キルコとマルには、そのような日常を共有できる関係が成り立っている。
だが、キルコは、ボーガンを持った敵に対するマルの戦い方を見て思う。
<運動神経が想定外だよ…… どんな動きすんだ  もしマルと本気で戦ったら銃を使っても負けるかもしれないな…… >(37頁)
キルコは、少し前に、マルの圧倒的な強さを評するチンピラの声を盗み聞きして、<フッ、フッ、フッ…… ウチのマルは強いだろう>(3-16頁)と脳天気に思っていた。だが、今、マルの振る舞いを見ての思いには、行動に対する評価だけでなく、超人的な能力に対する怯えが含まれている。

これから、各々が、相対して、己の立場を確保していくはずである。ただ、現時点では、置くべき足場の形さえ定かではない。
キルコ、マル、ロビン、トキオ、園長、猿渡というように、書き出してみると、誰一人として、同じ立場に立つ、と想定される人間は見当たらない。挙げられた人間以外にも多くの人間がいる。これから先、何が人々を引き裂くものであり、何が人々を結びつけるものとなりえるのか、興味は尽きない。これまでの経緯が序章の序章に見えるのは、気のせいだろうか。

*石黒 正数 著 『天国大魔境 5 』 アフタヌーンKC 2020/12/23