株式市場は、今日は反転しましたが、昨日までは世界同時株安となっていました。多くの報道は、中国A株市場の急落が引き金になったと説明しています。果たして本当はどうなのか?マーケットのメカニズムについて、これは答えはないのですが、ちょっと考察して、説明を試みてみましょう。

 A株市場は外国人による投資が制限されている市場です。QFIIと呼ばれる、北京政府から発行される割当枠を持っていなければ、外国人はA株を買うことは出来ません。今までに発行されたQFIIの総額は1兆円程度しかなく、要は世界の市場規模から考えると極めて小さい額で、理屈で考えると、このA株市場が売られたので、その投資家が換金売りで他の市場も売り、それらの市場が売られたと云うのは、論理的ではありません。

 しかもQFIIの発行を受けているのは、世界の名だたる機関投資家や金融機関に限られており、大抵はかなり深い戦略的な意味を持って枠を保有していますから、A株市場の急落が、他市場の下落の「直接的な」引き金となったとは考えにくいと思います(因みに当社の扱っているファンド「チャイナフォーカス」は、このQFIIを利用して、当社の個人のお客様でも中国A株市場に間接的に投資できる、とても珍しい投信になっています)。

 しかし世界の株式市場は同時に急落しました。売られるセンチメントが伝染した、とは云えますが、このような現象を解説する、他の考え方もあります。これは複雑系物理学の考え方で、恐らく現時点においては、マーケットの大きな動きを説明する最も有力な説です。

 無振動・無風の場所で、上から床に向かって砂を落とします。ずっと落とし続けます。砂は徐々に円錐形の山を造っていきますが、どこかで崩れます。これは何回やっても、仮に百万回やっても、いつ崩れるか、そしてその崩れ方の規模と形は、決して同一にはなりません。臨界点まで達した砂山は、いつか急に、ランダムに、崩れるのです。

 マーケットの急落は、この砂山の崩れ方にとても似ています。最後の一粒が落ちてきたから崩れたと云うよりも、臨界点に達していつでも崩れ得る状態になった砂山が偶々崩れた時に、最後の一粒が偶々その瞬間に居合わせた、と云うのが、複雑系の考え方です。今回のA株市場急落と世界同時株安も、同じような枠組みで捉えることが出来ます。

 この学説の真偽は分かりませんし、未来永劫に亘って分からない可能性があります。しかし、そのように現象を捉えることは可能であり、であるならば私たち(投資家)はどう行動すべきか、と云う命題の答えを導くにはとても有用です。

 崩れる瞬間を云い当てることは、数多く試せば偶々当たることはあっても、常に当てることは不可能です。しかし砂が落ち続ける場所には、いつか必ず大きな山が出来ます。崩れるタイミングだけでなく、崩れる場所も、その大きさも、偶発的なものである可能性が高く、そしてこの現象は市場にも当て嵌まる可能性が高いので、投資においてはタイミングと投資対象(場所)を分散し、かつ投資金額(大きさ)についても、一点張りをすべきでない訳です。

 随分長くなりました。この学説の正当性を論じる気はありませんが、一つの考え方として参考にしてみると、中々奥深いものです。