10メートルほど前に懐中電灯の灯りが2つ見える。
その時、シーンと静まり返った暗闇に田島先輩の悲鳴が響いた。
「キャ――ッ!」
「こっちへ来るな!」
今度は小杉だ。
「行こう!」
あたしたちは2つの懐中電灯に向かって駆け出した。
小杉と田島先輩の悲鳴は聞こえてきて、走りながら心臓がこれ以上ないほど暴れてくる。
なにが起こっているの!?
2つの灯りのところまでやって来ると、2人はいなくて懐中電灯だけが地面に転がっていた。
「いない!」
「小杉―! 先輩っ!」
玲奈が声を大きくして2人の名前を呼ぶ。
「健人っ! どこにいるんだ!」
翔平は懐中電灯の灯りで彼らを探している。
「キャ――ッ! 来ないでぇぇぇぇぇ――」
田島先輩の声だった。
「うわーっ!」
すぐに小杉の声も。
「亜美! 神社の裏手に気配がある!」
玲奈に教えられて、あたしは駆け出す。
月明かりだけの暗闇に慣れた目に、小杉と田島先輩が地面に座り手を自分の頭に置く防御の姿勢をしているのが見えた。
そして、2人の前にいるのはひかり。
『ユルサナイ……』
そんなひかりの言葉が聞こえてくる。
「ひかり!」
あたしはひかりと小杉たちの間に立ち塞がるようにして立つ。
『ジャマヲシタラ……コロス』
まるで地響きでもしたかのような声だった。
「ひかり、お願い! やめて!」
怒りのせいか、ひかりの髪の毛がすべて逆立ち、ギョロっとした目であたしを見る。
『ドケ……』
「ひかりっ! お願い! どうしてこんなことをするのっ!?」
かばおうとするあたしは、石が乗ったよう全身の重みと共に、ひどい頭痛までしてきた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
突然、田島先輩が地面にひれ伏し謝り始めた。
『オマエモ……シネ……』
地面にひれ伏していた田島先輩の身体がみるみるうちに宙に浮く。
まるで首をもたれ、絞められているかのようで、田島先輩は声も出せず大きな目を見開き、足をジタバタさせている。
「ひかりーっ! やめてー!」
あたしは重い身体を振り絞り、田島先輩の身体を地面に下ろそうとする。
翔平も手伝ってくれているけれど、2人の力でさえ田島先輩を下ろすことが出来ない。
その時、玲奈のお経のような声が聞こえてきた。
聞こえてきたと同時に田島先輩の身体がドサッと地面に落ちた。
「ごほっ! ごほっ!……」
田島先輩は咳をしながら、空気も取り込もうと喘ぐ。
「消えたのか……?」
暗がりだからわからないけれど、小杉の顔はおそらく蒼白に違いない。
そう聞く声も震えていた。
