怖かったようでお札を取ってから一目散に駆け出して戻ってきて息を切らしている。
「ちょーこえぇー 神社の窓って言うの? あれがさ、風もないのにガタガタって。俺、腰抜かしそうになった」
「あたしたちも神社から帰るとき、泣き声が聞こえたの!」
「俺なんか、足首を掴まれた気がしたんだぜ!」
皆が戻ってくると、口々に霊体験を話しだす。
近くにいるテニス部とサッカー部の顧問は笑いながらそれを受け流しているよう。
生徒たちがわざと怖がらせようとしているに違いないと頭から決めつけているのだ。
毎年、そんなことが繰り返されているから。
でもあたしは本当なのだと思っている。
ひかりがやっているに違いない。
そんな体験を聞いたこれからの生徒たちはこわごわと出て行く。
そして最後は小杉と彼女だった。
この組み合わせには後から知ったあたしも口もきけないほど驚いた。
なぜこれだけ人数がいるのに、この2人が一緒になったの? まさか……ひかりが?
「次、小杉と田島先輩!」
係りのテニス部男子が2人の名前を呼んだ。
「健人、あたし怖い……」
ビクビクし、今にも泣きそうな彼女が可哀想に見える。
「おい、早く行けよ!」
「そうだ! そうだ! 早く行けよ! 暗がりでキスでもしろよ」
顧問がそばに居ると言うのに、サッカー部の部員たちは悪乗りし、はやしたてる。
嫌な予感がして、すでに歩き始めた2人の後を追おうとした。
「亜美、あたしも行く」
「俺も」
玲奈と翔平だった。
「……うん」
あたしたちがその場から抜け出そうとすると、みのりの声が。
「あれ? 亜美たち、どこへ行くの?」
背後からの声にぎくりとして足が止まる。
あたしは振り返り、とっさに考えた嘘を言う。
「お札さ、けっこう置いてきちゃったから余っていると思うの。風で散らばったら次回からやらせてもらえなくなるでしょ? 取って来るね」
「えー 今じゃなくてもー けっこう怖かったよ。あたしは泣き声じゃなくて不気味な笑い声が聞こえたし」
「気のせいだよ。霊なんているわけないし」
あたしはひきつった笑みを浮かべる。
「じゃあ、小杉たちを脅かしちゃえば? 先輩、かなりビビッていたから」
みのりは悪戯に瞳を輝かせる。
「う、うん。そうだね。ちょっと行ってくる」
「OK~」
みのりに送り出されて、あたしたちは小杉と田島先輩を追った。
「玲奈は肝試しの時、なんかあった?」
あたしは歩きながら声を落として玲奈に聞いてみる。
「気配は感じたけど、なにもされなかったよ」
「霊感があるって大変だな」
翔平はのんきに言っている。
「まあね。でも見えないから」
「それも怖いな。俺みたいにまったくなにも感じないのが一番だな」
変な自慢になっている。
