「小杉だね」
「翔平、小杉があそこにいるよ?」
翔平は小杉をちらりと見る。
「もう新しい彼女か」
亡くなった岸谷まどかさんは小杉の彼女だった。
亡くなってからまだ2ヶ月経っていない。
翔平のあきれたような声。
「あの女の子、誰だろうね?」
浴衣を着て髪をアップにしている女の子に、みのりはわからないようだけど、あたしはすぐにわかった。
「彼女、3年のサッカー部のマネージャーだよ」
教えると、そう言えば見たことあると、一同が頷く。
「亜美はなんで彼女を知っているの?」
「この間、一緒にいるところを学校で見かけたから」
「そうなんだ。しかし、小杉の彼女って年上ばかりじゃない?」
そこへ大きな音と共に大輪の花火が上がり、会話が途切れた。
花火大会が終わり、今までいたたくさんの人はしだいに減っていく。
あたしたちは今行っても混んでいるだけだからと、その場に残って話をしていた。
「あれ? 亜美っ」
その声に顔を向けると、玲奈がいた。
その隣には大学生っぽい雰囲気の男子がいる。
「玲奈も来ていたんだ」
「うん。来るつもりはなかったんだけどね。兄貴が行こうって。あ、紹介するね。3つ上の大学生で、兄の拓磨よ」
細身で背の高いメガネをかけたお兄さんだ。
お兄さんはあたしたちに軽く頭を下げる。
シルバーフレームの向こうの瞳は黒曜石のように黒く、なんだか怖いと思ってしまった。
「君が亜美ちゃん? 妹がお世話になっています」
「こ、こちらこそ」
そうだ、翔平が言っていた玲奈の霊感があるお兄さんだ。
瞳の奥でなにかを見ているような、そんな瞳であたしを見ていた拓磨さんはフッと顔を緩ませる。
「なにかあったら、妹に連絡を取るように言って」
「えっ……?」
「なにもないといいね」
この人はあたしのことをお見通しなのだろうか。
ここには翔平たちもいるのに、あたしだけしか拓磨さんは見ていない気がする。
「失礼」
拓磨さんはそう言うと、あたしの両肩をポンポンと叩いた。
その途端、スッと身体が軽くなった気が。
「ぁ……」
「水には近づかない方がいいよ。じゃあ」
「え?」
拓磨さんは微笑むと、歩き出した。
「亜美、またね!」
玲奈は他の友達にも手をあげて挨拶して、お兄さんの後を追った。
