奇怪な出来事①
翌日からあたしはひかりのブレスレットを身につけて登校した。
なぜか、つけたくなったのだ。
「おはようー」
教室に入るとすでに来ていた玲奈が、椅子をガタっと引いてあたしに近づいてきた。
「亜美?」
「おはよー どうしたの? あたしの顔に何かついてる?」
あたしの前まで来た玲奈がじっと顔を見ているのだ。
何かついているのかと、手が顔に行く。
「それは?」
ペタペタ顔を触るあたしの腕を玲奈はガシッと掴んで聞く。
玲奈の視線はひかりのブレスレットだった。
「あ、もらったの。きれいでしょう?」
「もらったって、誰に?」
眉間に皺を寄せる玲奈にあたしはにっこり笑みを浮かべた。
「ひかりのお母さんに。昨日、ひかりの形見分けでもらったの」
「じゃあこれはひかりのなの?」
「うん。そうだよ」
玲奈は突然大きなため息をついた。
それからこめかみに指をやり、顔をしかめる。
「どうしたの?」
「ちょっと頭が痛くなって……」
「頭痛薬もってるけどいる?」
玲奈はゆっくり首を横に振る。
「ううん。大丈夫。そのブレスレットしない方がいいよ。死んだ人が身につけていた物って、念が移っていることもあるっていうから」
「そうかな~でも、ひかりなら大歓迎だよ」
あたし自身、昨日ブレスレットを見たとき嫌な感じを受けたのに、今はそんなことを思っていなく、むしろ大歓迎だと思っていた。
このブレスレットを身につけていたい。
あたしが身につけることでひかりが喜んでくれているような気がしたから。
放課後、窓際の席で午後から降り出した雨をぼんやり見ていた。
そこへ翔平がやってきて、あたしの肩をポンと叩く。
「よっ、部活、校内筋トレだってさ」
「えーっ、筋トレきらいなのに」
腹筋や腕立て伏せに空気イス、反復横跳びをする時間が一番嫌い。
「そんなこと言わずに行こうぜ。たしか、サボるヤツは夏合宿に参加させないって言っていたし」
「ほんとにっ? それはいや。翔平と一緒に参加したいもんね」
去年の夏合宿のとき、あたしたちはまだ付き合っていなかった。
付き合い始めたのは去年のクリスマス・イブで、仲良しグループで遊んでいて告白されたのがきっかけ。
夏合宿は暑くて死にそうなほど辛いけれど、夜には花火大会、肝試し、スイカ割りの楽しみもあった。
高校生活、いろいろ楽しみたい。
3泊4日の夏合宿でたくさん一緒に居られたらいいなと思っていた。
夏合宿の許可が下りないと困るあたしはしぶしぶ立ち上がると、翔平と一緒に部室に向かった。
傘をさして部室への通り道である校舎の裏側を歩いていると、大きな樫の木が目に入った。
あそこでひかりは健人に手紙を渡した……。
あのときのことを思い出すと、健人の言葉に嫌悪を感じてどうしようもないほどの怒りがこみ上げてきた。