杏梨は放心状態でマンションまでどう帰ったか覚えていなかった。
はっきりした時は自分の部屋のベッドの上にいて寝かされようとしていた。
「ぃ・・・いや・・・・・」
雪哉を押し退けるようにしてベッドから転がるように降りる。
床にペタンと座った杏梨は立ち上がらずに、ブラウスの上から胸をかきむしるような仕草をした。
「気持ち悪い」
意識がはっきりすると、あの男に触られた場所が不潔に思えて洗い流したかった。
「お湯をためてくる」
かきむしる手を止めれない。
止めさせても言う事を聞かないだろう。
* * * * * *
浴室は杏梨の好きなジャスミンの香りが漂っている。
浴槽いっぱいの泡から香る。
「ゆっくり入っておいで」
抱き上げて脱衣室まで連れて行った雪哉は杏梨の髪をそっと撫でてから背を向けた。
「・・・に・・・ぃて」
「えっ?」
雪哉は振り向いた。
「そばに・・・いて欲しい・・・・・・」
震える指でブラウスのボタンを外し始めた。
ブラウスが床に落ちる。
雪哉は胸の膨らみに赤い斑点を見つけた。
くそっ!
心の中で憤りを感じた。
刑務所に入れてやる。
先ほどかかってきた志岐島からの電話で、男は大学病院へ入院治療し、琴美は手の治療後、警察署へ連行されたと知らされた。
志岐島も事情を説明する為に警察署へ行っている。
『杏梨ちゃんから事情を聞かなければならない 大丈夫か?』
「わからない 少し時間が欲しい」
雪哉はそれしか言えなかった。
続く