玄関のドアを開けると自分の部屋から杏梨が姿を現した。
いつものような笑顔はないが、それでも昨日よりかは雰囲気が和らいで見える。
「おかえりなさい・・・・・・」
「ただいま」
峻から預かったトートバッグの持つ手に力が入る。
抱きしめたいのを堪えてそのままリビングへと行くと、杏梨も付いて来た。
「これ峻君から預かってきた」
リビングに入ると、振り返りトートバッグを付いてきた杏梨に手渡す。
「・・・・・・峻くんから?」
まるで得体の知れないものを見るような目でトートバッグを見ている。
「今日、客として来たんだ 中身はお土産とチョコレートって言っていた」
「お土産・・・・・・峻くんどこか行っていたんだ・・・・・・」
恐る恐るといった感じで中身をテーブルの上に出し始める。
彩の事を言えば気にすると思い雪哉は言わなかった。
「おいしそう・・・・・」
普段ならばもっと大喜びするだろうに心のわだかまりがあるせいか大人しい。
「それに好きな作家の小説・・・・・・」
パラパラめくると今すぐ読みたくなった。
「・・・・・・ファッション雑誌?」
しかもメンズのファション雑誌だ。
小首をかしげる杏梨を横目に見て雪哉は着替えに部屋に行った。
* * * * * *
戻ってくるとソファーに座った杏梨がファッション雑誌を見ている。
「ゆきちゃん、峻くんが載ってるの」
峻が載っているページをかかげて見せる。
「あぁ」
言葉少なげに言うとキッチンへ行く。
今日は杏梨の好きな松花堂弁当を買って帰って来た。
麦茶を入れていると杏梨が近づいてきた。
「座ってていいよ」
「片手が使えるから運ぶよ」
そう言って麦茶の入ったグラスを一つ持って行った。
雪哉もグラスを持ってテーブルに行くと、杏梨が松花堂弁当の包みをはがすのに手間取っていた。
「あと数日でギプスが取れるね」
杏梨の手から弁当を取り上げると席に着かせた。
杏梨の小さなため息が聞こえた。
「明日、病院に行ってくるね」
かゆいし思うように動けないので早く取って欲しい。
「明日は始業式だろう?」
「うん でも終わったら時間があるから」
「1人で大丈夫かい?」
杏梨の顔がハッとなる。
その言葉がまた気に障ったらしい。
「ゆきちゃん、18なんだから大丈夫だよ?」
「それは分かっている」
「・・・・・・ゆきちゃんはフェミニストだからすぐに気を回しちゃうんだよね?」
「フェミニスト?」
雪哉があっけに取られた顔になる。
「うん 女性に甘い、女性を大切にする男の人 ゆきちゃんはそうだもん」
言い切る杏梨に雪哉は深いため息を吐きたくなった。
俺が甘いのは杏梨だけだと言うのに・・・・・・。
続く