ゆっくり立ち上がった雪哉は眉根を寄せた杏梨に手を伸ばした。
「大事な子が泣いているんだ もっと側に居たかった」
抱きしめられて赤くなった目から再び涙が出そうになった。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
ゆきちゃんに心配ばかりかけている。
昨日まで琴美さんの正体を話さなかったのはわたしの為だし。
すごく悩んでいてくれた事がわかる。
「ん」
優しい返事に心が温かくなる。
「もう・・・大丈夫だから」
顔を上げて雪哉を見る。
「ゆきちゃんを・・・・・・結果的に拒絶しちゃったこと・・・ごめんなさい もう絶対にしないからっ」
きっと傷つけてしまったに違いない。
「俺は拒絶されたとは思っていないよ?杏梨には時間が必要だったんだ」
杏梨の顔を見る限りいつもの杏梨だ。
内心ホッと安堵している。
「ゆきちゃん、だいすき」
「大好きより愛している方が嬉しいな」
「そ、それはもちろん・・・だよ」
「じゃあ、言って?」
顔を覗き込まれて言葉につまる。
「ぁ・・・愛してる」
「よく出来ました」
子供のように頭を撫でられて話したかった事を思い出す。
「ゆきちゃん、もう琴美さんに会わないからね 安心してね」
「分かってくれて良かった」
「・・・・・・解雇されちゃうの?」
その時、雪哉はまだ杏梨が琴美の方に気持ちがあると感じた。
解雇されちゃうの?と解雇するの?では立場が琴美の方で聞いている。
バカが付くほどほど優しすぎるな 杏梨は・・・・・。
「いや、問題はあるけれど腕はいいんだ もう1人ネイリストを入れるから少し変わると思う それに解雇しないのは彼女の行動を把握するためだけだ」
「琴美さんはゆきちゃんが知っている事を知ってるの?」
「うすうす何かがおかしいとは思っていると思うよ バカな女性ではないからね」
「・・・・・・そうなんだ・・・・・・あっ!ゆきちゃん 遅刻しちゃう 朝ごはん食べよ?」
リビングに向かおうとする杏梨の手が掴まれる。
「酷い顔をしているよ 顔を洗ってきて?」
「あっ・・・う、うん!」
少しはにかんだ笑みを浮かべた杏梨は洗面所へ行った。
* * * * * *
雪哉が行ってしまうと杏梨はもう一度眠ることにした。
ほとんど眠っていないせいで頭がぼうっとしてしまう。
ベッドに入り目を閉じるとあっという間に眠りに就いた。
続く