雪哉は車に戻るとエンジンをかけて中で待つ。
待合室は居心地が悪いのだ。
時間を見計らって待合室に戻ると杏梨が座っていた。
「検査、早かったね?」
「うん」
返事をした杏梨は浮かない顔をしている。
「先生に何か言われたのかい?」
「えっ?」
「落ち込んだときの顔をしているよ」
杏梨はすぐ顔に出るから分かりやすい。
隣に腰をかけると足を組む。
「ううん 先生にはまだ会っていないもん」
「じゃあ・・・・・・モデルの件?」
雪哉が腕を伸ばし杏梨の髪に触れる。
長い指で髪の毛をゆっくり巻きつけては離す。
「うん・・・・・・やるって言っちゃったけれど・・・・・・やれる自信がない」
「大丈夫だよ 遼平の腕は確かだし、カメラマンの言うとおりにすればいい」
「そんなに簡単に言うけど・・・・・・」
つい最近まで対人恐怖症だったのだ。
人に言われるまま動けるか分からない。
「杏梨、やるって言ってしまったんだからやるしかないんだよ?」
「・・・・・・うん がんばる」
* * * * * *
CT検査の結果、もう問題はないと医師の見解だった。
腕は引き続き定期的に病院へ通うことになる。
安堵して病院を出ると6時を回っていた。
「食事をしてから行こうか 何を食べたい?」
「え・・・っと ラーメン!」
とっさに頭に浮かんだラーメンを言った。
「こんなに暑いのに?」
「うん♪だって温泉では和食ばかりだったでしょ?ラーメンが食べたくなったの」
車に向かう足取りはスキップしそうな勢いだ。
「OK」
そう言いながらリモコンキーをポケットから取り出すと鍵を解除し、助手席のドアを雪哉は開けた。
* * * * * *
雪哉がつけてくれたエクステはすべて外された。
杏梨の髪は肩に付くくらいになっていた。
少しだけカットして全体にふんわりとパーマをかけ柔らかい印象になるように施す。
髪の色は明るめのレッド系。
今まではナチュラルブラウンだったのでカラーを変えただけでも大変身に見える。
遼平が鏡に映る杏梨を真剣な眼差しで見ながら指先で髪の動きをつけている。
「すごく可愛いよ 俺のイメージどおり」
まだ途中なのだが満足げな遼平だ。
「雰囲気が変わったわねー♪なんだか妖精って感じ」
鏡の横に立っているめぐみが言う。
よ、妖精・・・・・・?
鏡の中に映る自分を見て目をぱちくりさせる。
「疲れちゃった?腕は大丈夫?」
めぐみがミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開けて渡す。
「ありがとうございます 大丈夫です あの、ゆきちゃんは?」
「オフィスで書類を片付けていたわ ちょっと仕事が溜まってしまったみたい メイクをして完成したら呼びましょうね」
続く