中身は重箱だ。
まだ返していなかったな・・・。
~~~♪
机の上に置かれた携帯電話が鳴った。
着信はタイミングよく彩だ。
「もしもし?」
『雪哉さん、彩です 今大丈夫ですか?』
「ええ 先日はご馳走様 重箱を返そうと思っていたところなんだ」
『私の事、考えてくれていたんですね』
嬉しそうな彩の声に雪哉はばつの悪そうな顔になった。
イスから立ち上がり携帯電話を耳にあてながら窓の外に視線を落とすと、真夏の太陽を避けるように人通りがあまりない事に気づく。
外は暑そうだな。
『・・・哉さん?雪哉さん?』
「え?あぁ・・・」
『お仕事、お忙しいんですね 今日の夜、お食事にお誘いしようかなって思ったんですけど・・・』
「いいよ 8時にリヨンで良いかな?」
リヨンは先日、4人で会った店だ。
『もちろんです!』
嬉しさに弾んだ声がした。
携帯電話を切り、イスに座った雪哉は背もたれに身体を預けた。
彩が自分に好意を持っているのは十分承知している。
杏梨を傷つけない為にも彩には恋愛感情がない事をはっきり言うべきだろう。
このあやふやな関係をはっきりさせるべきだと雪哉は考えた。
* * * * * *
杏梨は琴美の手伝いをする事になった。
手伝いといってもヘアーサロンの方の仕事も兼ねてで、琴美のお客様を案内したり飲み物の注文を受けたりする仕事だ。
ネイルサロンが軌道に乗ればアシスタントを採用する予定だ。
「杏梨ちゃん、気が利くから助かるわ」
琴美は使用したマニキュアの瓶を片付けている杏梨に言った。
「そんなことないです・・・」
大人な女性 琴美に褒められて杏梨の頬はポッと赤くなる。
「毎日、アルバイトで彼氏は文句言わないの?」
「え・・・?」
マニキュアを片付けている手が止まる。
「可愛いから彼氏いるんでしょ?」
そう言われて杏梨は困った。
お店の人にわたしとゆきちゃんの事、話したくない。
「いいえ・・・」
「本当に?若いからこれからよね~?」
口ではこう言っているが、琴美は内心はらわたが煮えくり返っていた。
幸せそうな貴方が許せない。
続く