「まだいたのか」
ソファーに座っている杏梨を見て雪哉は顔をしかめた。
雪哉は顔をしかめたが、杏梨はタオルで髪を拭いている雪哉の姿に心臓がトクンと跳ねた。
上半身は裸だったからだ。
「ゆ、ゆきちゃん 何か着てよっ!」
急いで顔を逸(そ)らした。
着やせする身体だけどしなやかな筋肉が付いていて杏梨の脳裏から消えてくれない。
「杏梨、照れてるの?」
真っ白なふかふかのタオルを首に巻いたまま杏梨の隣に座る。
「ゆきちゃんっ!」
顔は真っ赤でゆでだこ状態。
爽やかな石鹸の香りをまとった腕が杏梨の肩に回った。
杏梨の恥ずかしい顔を見るとからかいたくなる。
「まだ暑いんだ」
部屋の中は十分にエアコンが効いていて風呂から上がった肌は冷めている。
「じゃあ、引っ付かない方がいいよ」
照れている一方、顔がこわばっている感じを雪哉は受けた。
何かが変だと雪哉は思った。
「ゆきちゃん、わたし・・・ゆきちゃんの過去の女性関係なんて気にしないからね?」
突然の杏梨の言葉に雪哉の目が大きくなる。
「何を言っているんだ?」
「わたしの事、好きだよね?」
どうしてもゆきちゃんの口から聞きたい。
「俺がどう思っているのか知っているだろう?」
「・・・」
答えない杏梨にため息が出る。
髪をかきあげ杏梨を見つめる。
「何を確かめたいんだい?」
「確かめたい?ううん 違うのっ 確かめたいんじゃなくてわたしの事が好きだって言って欲しいの」
言ってしまうと恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。
いや、同じ事だろう・・・。
俺の口から愛を確かめたいんだ。
何を不安になっているのやら・・・。
「何かあったのか?」
大きな手で頬を包み込まれ顔を上げられてしまう。
逃れられずにゆきちゃんの顔を見ているとゆっくりと顔が近づいてきた。
唇と唇がくっつきそうなくらいに近づいている。
「言って、杏梨」
声は気のせいか艶(つや)を増したように聞こえる。
このゆきちゃんの怪しい雰囲気に抵抗できる人がいたら見てみたいよっ・・・。
続く