翌日の朝、相変わらずだぼっとしたトレーナーにジーンズを履いている杏梨に雪哉は聞いた。
だいぶ痛みが和らいできた杏梨はにこっと笑って頷く。
「もうなんともないし、大丈夫だよ?」
なんともないと言うのは嘘だが、擦りむいた箇所が痛む以外は大丈夫だ。
大丈夫といっても雪哉の心配そうな表情は変わらない。
「ゆきちゃん、過保護もいい所だよ?」
杏梨は怒った振りをして頬を膨らませる。
「・・・わかったよ 送迎はお任せ下さい お姫様」
杏梨の胸を高鳴らせるには十分な笑顔で雪哉は言ったのだった。
* * * * * *
「香澄ちゃん 教えて欲しいの」
放課後、杏梨は帰ろうとしていた香澄の腕を捕まえて言った。
「あたしに教えて欲しい事?」
何の用なのだろうときょとんとした顔だ。
「うん ねえ、香澄ちゃん パーマってどうすればいいの?」
真剣な顔をして聞く杏梨に香澄はポカンと口を開けた。
「パーマ?って髪の毛の?」
「そうだよ?パーマって他にも何かあるの?」
「だって・・・杏梨・・・」
今までおしゃれに関してまったく興味がなかったのに。
「あたしにパーマの事を聞くの?雪哉さんがいるでしょうに 雪哉さんに聞いた方が一番いいんじゃないかな?」
「・・・だって・・・恥ずかしくて聞けないんだもん」
そう言う事か・・・。
杏梨の赤くした顔を見て香澄は理解した。
「知らないうちに変身したいって訳だ」
「・・・うん」
頬をピンク色に染めた杏梨に香澄は微笑む。
今時の高校生とは違ってお化粧もしていないけれど十分可愛い。
香澄はスーパーやドラッグストアーで売っているパーマ液の事を教えた。
自宅で手軽にパーマが出来るというもの。
「へえ~ 美容室に行かなくてもパーマが出来るんだ~」
嬉しそうに感心する杏梨の額を香澄は指で小突く。
「いったいどういう心境になったのかな?杏梨ちゃんは?」
「え?う、うん・・・」
「さあ、話してみてよ♪」
促されて口を開く。
「ゆきちゃんの事好きだって知ってるでしょ?」
「そりゃ、もちろん知っていますとも 何年杏梨の親友をやっているのよ」
「で・・・ゆきちゃんの側にはきれいな女の人ばかりで・・・」
「うん うん そうだよね カリスマ美容師だけでなくあのルックスだから女性は嫌でも寄って来るもんね?」
「だから・・・少しでもきれいになれるように努力してみようかなって・・・」
杏梨は照れくさそうに言った。
香澄は親友の心境の変化に嬉しく思う。
あんな事があってから女の子を捨てていたから。
杏梨は可愛い。
少し手を加えれば誰からも振り向かれるほどになるはず。
続く