「いいよ 遅刻して電車で行くから ゆきちゃんは眠ってね」
混雑していない電車ならば乗れる。
「大丈夫、杏梨送ってから眠るから」
「う、うん・・・」
わたしの事なんか気にしないで眠ってくれると良いのに・・・。
「迎えの時間は後でメールして 行くから」
「いいの?」
何から何まで申し訳ないと思いつつも行き帰りの時間、ゆきちゃんと一緒にいられると喜んでしまう。
「もちろん 杏梨に何かあったら大変だからね」
* * * * * *
「おはよ~ 香澄ちゃん」
3年A組の教室に入るとすでに来ていた仲の良い日下 香澄(くさか かすみ)の所へ杏梨は行った。
「おはよう 杏梨 今日はご機嫌って感じ?」
雨の日なのにニコニコしている杏梨。
「な、なんでわかっちゃうんだろ・・・」
「杏梨は分かりやすいから 何があったの?」
中学から杏梨と一緒にいるせいで表情一つで分かってしまう。
まあ・・・長い付き合いでなくとも杏梨は分かり易い性格なのだけど。
ニコニコの原因は一緒に住んでいる冬木 雪哉のせいだろうな。
「ゆきちゃんに送ってもらったの
」「はいはい 美形のお兄様に送ってもらったんだね」
杏梨の可愛い顔がにこーっと笑顔になる。
「香澄ちゃん、お兄様じゃないの 義理、義理のお兄さん そこんとこ間違えないでねっ?」
知り合った頃から杏梨が隣のお兄さんを大好きだった事を知っている。
そのお兄さんは今では大人気のカリスマ美容師。
顔も今流行のイケメンと言われる美形で長身とルックスで女性にモテモテだ。
大人気のカリスマ美容師は世間では芸能人扱いで、女性と食事に行っただけで週刊誌に載ってしまう。
女性関係の噂を聞くと杏梨が心配になってしまう。
ましてや一緒に住んで彼の女性関係で杏梨がつらい思いをしやしないか心配だった。
幸いな事に杏梨の口から雪哉の彼女の話は一つも出ない。
杏梨に遠慮して彼女をマンションに呼ばないのかもしれない。
あれほど素敵な男性で、モテまくりなんだから彼女がいない方がおかしい。
でもあたしは杏梨を応援している。
だって、男性恐怖症の杏梨が唯一心を許せる人だから。
続く