朝日新聞 sippoからです。

http://www.asahi.com/ad/sippo/words/p201403_01_kondo.html


Words for You
―君に贈る言葉―

個性豊かな犬たちと暮らしてきた
「愛犬家」の近藤良平さん。
先輩犬たちのこと、“女王”シオンのこと。

取材・文/編集部 撮影/和田裕也

犬とピアノを手に入れられる場所

 近藤良平さんのプロフィールは、「愛犬家」という言葉で締めくくられる。潔い、ひと言だ。

 

「本当に犬が好きで。独身時代は猫と暮らしていたのですが、結婚を機に“犬とピアノを手に入れられる場所”を絶対条件として住まいを探しました」

 今、近藤さんが共に暮らすのは、ワイヤーへアード・フォックス・テリアのシオン(女の子、7歳)。近藤さんは愛犬のかかりつけの動物病院で、“ずる過ぎるくらいかわいい”ワイヤーへアード・フォックス・テリアに出会い、その飼い主との交流がきっかけで、子犬のシオンをもらい受けた。


 若い頃のシオンはまさに女王様で、それはプライドが高かったという。年上で先に旅立った2頭のゴールデン・レトリーバーのデュークとナイトをかわいがろうものなら、「どうして私のことをかまってくれなかったのっ?!」とばかりに嫉妬を露(あら)わにしたという。


 ワイヤーへアード・フォックス・テリアは元来、名前のとおり狐(きつね)狩りで活躍した犬種だ。機敏で、瞬発力やジャンプ力も高い。少々太り気味と指摘されるシオンだが、身体(からだ)はしっかりと筋肉に包まれ、散歩ではその威力を発揮する。

デュークやナイトたちのこと

 シオンはデュークのいる近藤家にやってきた。

 「デュークは本当に優しい子で、シオンのおてんばぶりにも、『まぁ、そういう子もいるだろう』という感じで接していました。彼は警察犬の家系に生まれ、もらい受けるにあたっては、元警察犬訓練士から“犬の、そしてゴールデンという犬種の、飼い主として適切かどうか”の厳しい審査を受け、“犬のしつけの何たるか”をみっちり仕込んでもらったという。「かなり真面目なドッグライフでした(笑い)」


 一方ナイトは、遺棄されて命が危ういところを保護され、一時預かりとして近藤さん宅に来た子だった。迎えたときは痩せていて、人間不信もあったという。「それでも、思ったより早く家族になじみました。同じ犬種でも、デュークとナイトはたどってきた道が全く違う。優等生でおおらかなデュークに対して、ナイトはたとえば猪突(ちょとつ)猛進しては穴に落ちて、『あー、またやっちゃった!』を繰り返すような、だめっぷり全開な子でした」


 近藤さんの奥様も命を救う役に立てるならと、保護犬の支援活動に参加する。今、奥様の実家で元気に暮らす雑種の小夏は、近藤さん宅に迎えたときには、あばら骨が浮き出て、2日間はうずくまったままだったという。家族も先住犬たちも優しく見守り、小夏はゆっくりゆっくり犬らしさを取り戻した。

 奥様は鍼灸(しんきゅう)師で、「我が家の玄関でねそべる犬に迎えられるだけで、お客さんのコリは半分緩んでいるのでは」と近藤さんは微笑(ほほえ)む。「ただ、ピョンピョン飛びついてくるシオンには、癒やされない人もいると思いますけど……」


 デュークを迎えたときには厳格なしつけを実践していたが、シオン、ナイトをはじめ何頭かの犬を迎え、その間に次女も生まれて、基本的なしつけは当然のことながら、全体としては緩やかな暮らしに変わってきたそうだ。

犬と人の関係は進化の途中

 子どもの頃は野犬を見て「怖い」と思ったのですが、大人になった今は「申し訳ない」と思ったりします。大袈裟(おおげさ)かもしれませんが、現実的には人間は犬や小動物を平気で捨てます。犬を縄につないだまま家を引っ越したりします。しかし犬たちは決して人間を捨てません。〈中略〉犬とニンゲンの関係はまだまだ進化の途中なのです――(近藤さんのブログ「近藤良平の人間の掟(おきて)」より)


 「犬と暮らしたいなら、それが無理なくできる環境を作ってほしい。引っ越ししても、仕事を変えても、生活を見直してでも、です」

 

「シオンを見ていると迷いがない。テリアらしい子です。僕も停滞が好きではないから迷わない。僕の仕事には正解がありませんから、選んだら『これだ』と思っていないと前に進みません。お嬢さん、あなたもそのままでいてくださいね!」



※この記事は『sippo』no.22(2014年3月発行)に掲載されたものです。内容は取材当時のものになります。



近藤良平(こんどう・りょうへい)
振付家・ダンサー。学ラン姿でダンス、映像、コントなどを展開するダンス・カンパニー、コンドルズ主宰。NHK「サラリーマンNEO」「からだであそぼ」などに振り付け出演。第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。大学で非常勤講師としてダンスの指導にあたる。味の素スタジアムで開催された東京スポーツ国体2013の、開会式式典演技の総演出を担当。南米育ち。愛犬家。
www.condors.jp

近藤良平さんとシオンの大切な場所

キャンピング・カー

シオンは自分の居場所を見つけるのが、とてもうまいと近藤さんは言う。家の中はもちろん、昨年購入したキャンピング・カーの中でも、あっという間に棚の上にしっくりくる場所を確保した。「置き物のように収まっているでしょう?」。キャンピング・カーは、近藤さんの長年の憧れだった。多忙な合間を縫って、家族で出かけている。
写真3点提供/近藤良平さん



午睡中のナイト(左)とデューク