処方は歴史をさかのぼる

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以前のエントリでも取り上げたが、http://ameblo.jp/momo-kako/entry-10712768203.html

これまで登場した精神的苦痛を治療するための薬物としては、アルコールとアヘン、次いでモルヒネ、ヘロイン、コカインまでもが使用され、これに続いて使われたのがクロラール、臭素化合物(ブロバリン)、バルビツール酸塩類、および他の多くの類似品であった。

しかもアルコールを除くこれら薬物は、どれも薬物中毒の治療にも使われるようになったが、後にはそれ自体も中毒を起こすことが判明した。

登場した当初は、どれも「危険性はまったくない」と言われていた薬物も、結局は依存を引き起こし、その治療のために新たな薬剤が、これらもまた「危険性はまったくない」というお墨付きのもと使用され、結局は依存を引き起こす。

精神薬の歴史は常にこれの繰り返しである。



1960年代になると、バルビタール系薬物が自殺と事故死の危険性をはらんでいるのに対して、過剰摂取時にも比較的安全なベンゾジアゼピン系薬物がもてはやされるようになった。

当然、ここでも「安全性」が強調されたが、結局のところ、1990年代になると、トランキライザー類は依存性薬剤として国際的に指定され、処方は短期間と限定、その結果、使用量は徐々に下降していき、それにとって代わるように、医師たちが従来よりもさらに長期間、さらに大用量を投薬できるようにするために、抗うつ薬を処方し始めたのである。



しかし、日本では事情を異にする。ベンゾジアゼピン系薬物の短期使用が国際的に常識となっているにもかかわらず、相も変わらずの安易な漫然処方が恥ずかしげもなく行われているのは多くの方がご存知のとおりである。



ベンゾ処方、医師の本音

ここにおもしろい資料がある。独立行政法人国立病院機構菊池病院の臨床研究部の研究報告書(平成15年)筆者は原井宏明氏(菊池病院臨床研究部)。

少し長いが引用する。


「ベンゾジアゼピン系薬物は鎮静剤、催眠剤または抗不安薬として幅広く頻用されている。ベンゾジアゼピンが主な対象としている病態は、不安症状や不眠を訴えるような疾患である。これらの多くは不安障害やうつ病性障害、気分変調性障害である。臨床試験によるエビデンスが示すところによれば、これらの疾患に対して有効な薬剤は抗うつ薬であり、ベンゾジアゼピンの役割は限定的である

 しかし、実際の日本での臨床のあり方は治療ガイドラインやエビデンスとはかけ離れている。抗不安薬の処方頻度が高く、その中でもチアノジアゼピン系のエチゾラムとクロチアゼパムが多い。医師に対する薬剤処方アンケートによると催眠鎮静剤・抗不安薬の使用率は全科では約80%、内科は約93%、精神科は約98%と報告されている。これは諸外国と比べると使いすぎ、と呼べる状態である。諸外国では1990年代に入ってSSRIがうつ病のみならず各種不安障害の薬物療法の中心になり、ベンゾジアゼピンの処方が減少している。これに対して日本では依然として先進国の中では突出したベンゾジアゼピンの処方件数があり、それは減少する兆しを見せない。

 こうしたことの理由のひとつは、ベンゾジアゼピンが臨床医にとって処方しやすいことがある。表にベンゾジアゼピンの処方医からみた利点と欠点を示す。」


 そして、その表にある、「利点」というのが実に正直に書かれている。

【処方の安易さ】

・診断をつけずに処方しても問題が起こることが少ない。

・本人の訴えに応じて処方すればよく、治療計画は不要で、機械的な処方ができる。

・服用量や服用時間、頓服について、患者の判断に任せても、問題になることが少ない。

・誰でも服用している、内科でも処方する「軽い安定剤」という名前で広く知られており、患者に警戒心を起こさない。

・抗精神病薬や抗うつ薬につきまとう「精神病」というマイナスのイメージがない。

【医院経営への影響】

・常用量依存を起こすことにより、患者が受診を怠らないようになる


反対に「欠点」はこうだ。

・最近、メディアにて処方薬依存、乱用が問題として取り上げられるようになり、処方がためらわれるようになった。





これは反精神薬の人が書いたものではなく、現場の医師が書いた文章だ。

そうですか、やっぱり、わざと常用量依存を起こさせて、患者をつなぎとめておくのが目的ですか、と言いたくなる現実だ。



ベンゾは依存の入口

 このようにして安易にいとも気軽に処方されたベンゾジアゼピン系薬物によって、患者は中毒者に仕立て上げられ、これまでの薬物、量では効き目が実感できなくなる。

 となると、どうなるか。

 処方は歴史をさかのぼるのだ。


 ベンゾジアゼピン系薬物(デパス、レンドルミン、ロヒプノール等々)

    ↓

バルビツール系(ラボナ、イソミタール、フェノバール、プリミドン)ベゲタミン

   ↓

臭素化合物(ブロバリン、カルモチン)

    ↓

コカイン・ヘロイン・モルヒネ・・・



 さすがに、違法薬物であるコカイン、ヘロイン、アヘンが処方されることは現代ではないが、一度耐性がついた身体ではさらなる強い薬物を必要とするのは、誰にでもわかる理屈である。

 2009年に亡くなったマイケル・ジャクソンがまさにそうだった。死因は、強力な麻酔剤プロポフォールの過剰投与。耐性が付いた結果の過剰投与である。

マイケルは以前から鎮痛剤を常用していたらしい。最初の入口は小さかったのだ。それが耐性とともに徐々に強い薬を必要とするようになり、ついには命を落としてしまった。


 

 上記の表のようにいとも気軽に、経営維持の目的もあって今も処方され続けているベンゾジアゼピン。安全安全というが、それは先発のバルビツールなどと比べて多少は安全であるというのに過ぎない。しかも、それを入口に耐性の結果、バルビツールなどどんどん強い薬へと処方が移行してくとしたら、ベンゾジアゼピンの安全性を口にすることなど、まったく意味のないことではないだろうか。

安全であるのは、まさに医師にとって、ということにすぎない。処方するのに安全・便利なベンゾジアゼピンを入口に、さらに重篤な中毒患者を作っていることを、たぶん医師は知っている(知らなきゃ医師とは言えない)。

 そして、患者は、イソブロ(イソミタールとブロバリンの混合)など、行きつくところまで行きつけば、マイケルのように、死ぬまでそれをとり続けるか、地獄の禁断症状を経ながら、一枚一枚、厚着した着物を剥ぐように、徐々に減薬していかなければならなくなる。

ベンゾジアゼピンの離脱症状は耐えがたく「死んだほうがまし」(とよく表現される)だとしたら、「ベンゾジアゼピンは安全」などという文言は妄言に等しい。



しかも、ほとんどのベンゾジアゼピンは薬剤代謝酵素(CYP3A4)から見た場合、SSRI(デプロメール(ルボックス)、ジェイゾロフト)とは併用注意である。

しかし、現行のうつ病治療アルゴリズム(治療手順)では、第一選択としてSSRI(SNRI)±ベンゾジアゼピン系薬物となっているのだ。

こんなアルゴリズムで大丈夫なのか? 併用注意に相当する処方をされている人は、かなりの数のぼるはずだ。