悪意など微塵にも無い

ただ彼は何気なく

その言葉を発したのだ

 

しかし彼女は違った

彼女の心はそれを

卑劣極まりないと受け取った

そして

思い悩んだ末に自ら命を絶つ

 

何故だと自問自答する彼

その言葉が彼女に対してだけは

短慮であったことも

その言葉を放ったことさえ

記憶にはない

 

けれど彼は無罪

 

ある意味 

星の数以上に

言葉と言葉が交差する

この人間界隈に在って

言葉とは

なんと繊細な物なのだろう

 

誰をも救う言葉も無ければ

誰をも見捨てる言葉も無い

誰からも称賛される演説も無ければ

誰からも非難される演説も無い

 

想いを言葉にすれば

時に誰かの気分を害し

もしかしたら

誰かを救うこともあるかもしれない

 

何も発しないことが賢明か

答えはNO.だ

意見の無い奴だと

咎められるだけ

 

人間が言葉を使うようになり

欲望等が生まれ

やがて

幾多の争いが繰り返される

未だ尚

 

絶対的に正しい者も

絶対的に正しい時代も

無かった

 

今は令和

やはり目に余る理不尽で

溢れ返っている

 

駅のプラットホーム

降る雪を

淡々と受け入れる

自然の

ありのままの姿とは対照的に

 

舞い踊る雪の華に

心震わせる美しい人

その隣では

よりによってこんな日に雪かよと

舌打ち

 

異なる感性数多が

その趨勢を眺め

時に弾き 切り取れば

無機質な電車が

走り出す

 

駅のプラットホーム

愚直なまでに真っ直ぐ

降り続ける雨を

自然は粛々と受け止める

 

降る雨の

その真っ直ぐさに

心動かされた少年は

何時の日かの偉大な画家

その隣では

よりによってこんな日に雨かよと

溜息一つ

 

人間だけは

それぞれ異なる角度から

雨も雪も・・・

見つめるんだねと

 

嘲笑うかのように低空飛行する燕

雨の日に

何故彼が低く飛ぶのかを

ご丁寧に研究し

答えを出してみせるのも

人間にのみ成せる業

 

この虚しさを

無表情で言葉少な

しかし訳知り顔した風に問う

北へと流れる彼は言う

自分で答えを出せ

出来る限り正しい答えを出せと

もう少しの間聞いていたいと

前を見遣れば

既にその姿はなかった

 

前述の通り

誰からも称賛される演説は無い

誰からも非難される演説も無い

 

だが大きな転換期にある

この地では

分をわきまえず

我が主張こそ全てと

右からも左からも前からも後ろからも

喧しく

 

ただ

思い遣りが有り優しさに満ち溢れた

言の葉を探し出し

身構えることなく

暖炉で温め合えば

自然と笑顔が・・・・・・・・・・・・・・・