愛情なら要らない

出来ればそいつを換金して

幾らかでいい

同情として差し出して頂ければ

 

冬は寒い

ここ

五番街の外れにあるテリトリーは

奇妙に寒い

 

何を思ったのか

季節を誤った春が

迷い込んで来て

 

その殺伐とした空間を前に

涙した

花びら何枚かをお札に変え

時計台の下にお供えしたなら

逃げるように季節を飛び越え

定席へと辿り着き

平静を装った

 

時計の針が違法な夜を指す

間髪入れづ

年端も行かぬ女達の品定め

 

吹くことを忘れた

諦めという名の風がただ見入る

 

やさぐれた花々に

喰らい付く灰色の鼠達を

 

次々と商談が成立してゆく

残ったのは

このテリトリーに住み着くには

歳を取り過ぎてしまった

(幸子)二十三歳

 

もう引き際なの それとも死に時

時計の針に語り掛ければ

針が一分進む

 

一目で勝利者と分かる男が

勝ち色に染められて足早に

 

幸子が果敢に挑む

何か飲ませてよ

 

何が飲みたい??

 

お兄さんのカルピスかな

 

お前 

生きているのかそれとも死んでいるのか

 

カッコよく言えば生きた屍

 

じゃー 生きたいのか死にたいのか

 

わからない

 

だったらその答えを出しに行こうぜ

そう言うと幸子をタクシーに乗せ

何処かへと向かう

 

ここはさ この街の自殺の名所だ

さあ この世の一滴(ひとしずく)

葉から落ちてその身儚く消えゆくのか・・・

 

まだ詰んでいない

幸せになりたいよ

涙が溢れ出る

 

泣き喚く幸子を

会員制VIP倶楽部の個室に

そっと通す

 

その豪華さを前に

涙を忘れただただ息を呑む

 

世の中卑怯だね

今の私とは雲泥の差よ

 

嘗て俺も金に飢えていた

だがすぐに

金で本当の幸せは買えないと気付いた

 

だったら今夜出会った哀しい女に

富を愛情に変え差し出したいと思う

君は金ではなく愛情を受け取ってくれるか

 

幸子は頷いた

 

愛情を素直に受け取れるようになれば

君は変われる

 

うん

 

キスってこんなにも優しかったんだ

 

さあ滔滔と不幸語りしろよ

最後まで聞いてあげるから

 

そうか・・・

要約して言えば

愛情表現が下手な女が

しかし愛情に飢えていた

だが愛されることはなかった

気が付けばホストクラブで

疑似恋愛

疑似恋愛する金を

追いかけ回しているうちに

こんな女に

しかしそれにも疲れ果てて・・・

 

お前 茶碗蒸しって食べたことあるか

 

ない

 

ちょっと待ってろ 美味しいぞ

俺は亨 

そう言って手を差し出す

 

私は幸子 

そう言って手を差し出した

 

固く固い握手は 寂しい者同志の契り

茶碗蒸しの滑らかな味わいと共に・・・・・・・